第77回 午後 72

理工学・放射線科学

60Co γ線のエネルギースペクトル測定の結果を図に示す。

エスケープピークはどれか。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.ア


解説

この問題は、60Co線源のγ線スペクトル(エネルギーの分布図)を読み解く問題です。 この複雑なグラフも、4つのステップで論理的に読み解けば、必ず正解にたどり着けます。

✔ ステップ1:主役(全吸収ピーク)を見つける

  • 60Coの基本情報
    • まず、60Coは「1.17 MeV」「1.33 MeV」という2種類のγ線を放出する、という基本知識を思い出します。
  • 全吸収ピーク
    • 検出器が、この2種類のγ線のエネルギーを100%吸収できた場合に、グラフ上に鋭いピーク(山)ができます。これが「全吸収ピーク(Photopeak)」です。
  • 判定: グラフを見ると、イ(1.17 MeV)ウ(1.33 MeV)が、まさにこの2つのピークに対応していることが分かります。

✔ ステップ2:合計(サムピーク)を見つける

  • サムピークとは?
    • 60Coからは1.17 MeVと1.33 MeVのγ線がほぼ同時に放出されます。もし、この2本がたまたま同時に検出器に入射すると、検出器は「2本が来た」とは認識できず、「合計のエネルギーを持った1本のγ線が来た」と勘違いします。
  • 計算
    • 1.17 MeV + 1.33 MeV = 2.50 MeV
  • 判定
    • グラフの右端にあるは、まさに2.5 MeVの位置にあり、これがサムピーク(Sum Peak)です。

✔ ステップ3:引き算(エスケープピーク)を見つける

  • エスケープピークとは?
    • 1.022 MeVを超える高いエネルギーのγ線(今回の場合は1.17 MeVや1.33 MeV)が検出器に入射すると、電子対生成という現象を起こし、2本の0.511 MeVのγ線に変身することがあります。
  • 逃走(Escape)
    • 通常、この2本とも検出器に吸収されますが、ごくまれに、そのうちの1本(0.511 MeV)が検出器から逃走してしまうことがあります。
  • 検出器の勘違い
    • 検出器は、逃げられた分のエネルギーを差し引いて記録してしまいます。
    • (検出されるエネルギー) = (元のエネルギー) – (逃げた分: 0.511 MeV)
  • 計算
    • 1.17 MeVのピークから逃げた場合: 1.17 – 0.511 = 0.659 MeV
    • 1.33 MeVのピークから逃げた場合: 1.33 – 0.511 = 0.819 MeV
  • 判定
    • グラフのは、まさに0.82 MeV付近にあり、これが1.33 MeVのγ線から生じたエスケープピークです。

✔ 残りの部分は?

  • :これはピークではなく、コンプトン散乱によって生じる、なだらかな丘(コンプトン端)の一部です。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「スペクトルグラフに現れる山や丘が、それぞれどの物理現象に対応しているか」を、正しく結びつけられるかを問うことにある。 これは、ただの暗記問題ではない。

  • イ、ウ(全吸収ピーク): エネルギーを100%吸収できた成功の記録
  • オ(サムピーク): 2本同時に吸収してしまった合体の記録
  • ア(エスケープピーク): 0.511 MeVだけ逃げられたという失敗の記録
  • (コンプトン): エネルギーの一部だけを吸収した中途半端な記録

この4つの現象を、頭の中で区別できているか。特に「エスケープ=0.511を引く」という計算ルールを知っているかが、合否を分けるポイントじゃ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「エスケープピーク」を知る必要があるのか?ー

この知識は、核医学検査(SPECT)で、画質を決定づける「エネルギーウィンドウ」を設定する際に、極めて重要になるからです。

  • エネルギーウィンドウ(PHA)
    • 核医学検査では、目的のγ線(例: ⁹⁹ᵐTcの140keV)だけを選び出すために、エネルギーの「窓(ウィンドウ)」を設定します。
  • ノイズの混入
    • もし、このウィンドウ設定を誤って広くしすぎると、目的のγ線ではない、周囲の「コンプトン散乱」や「エスケープピーク」といったノイズ成分まで画像に取り込んでしまいます。
  • 画質低下
    • ノイズ成分が混入すると、画像のコントラストが著しく低下し、病変が見えにくくなります。

「エスケープピークがどこに現れるか」を知っていることは、それをいかに避けるかを知っていることであり、最適なエネルギーウィンドウを設定して、最高画質を引き出すためのプロの技術に直結するのです。


今日のまとめ

  1. γ線スペクトルグラフのピークには、それぞれ発生原理がある。
  2. イ (1.17 MeV), ウ (1.33 MeV) :全吸収ピーク60Coが放出する元のエネルギー)
  3. ア (約0.82 MeV)エスケープピーク(元のエネルギーから 0.511 MeV を引いた値)
  4. オ (2.50 MeV) :サムピーク(元のエネルギー2本を足した値)
  5. これらの偽のピーク(エスケープ、サム)を理解することは、核医学検査で高画質を得るためのエネルギーウィンドウ設定に不可欠である。

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