第77回 午後 85

放射線安全管理学

血管造影検査で患者の被ばく低減につながるのはどれか。

  1. 照射野を広くする。
  2. 透視時間を長くする。
  3. 幾何学的拡大透視を多用する。
  4. 透視時のパルスレートを下げる。
  5. 撮影時のフレームレートを上げる。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.透視時のパルスレートを下げる


解説

この問題は、血管造影(IVR)における「被ばく低減の鉄則」を理解しているかを問う問題です。 学生さんが一番つまずくのは、「透視」と「撮影」の違い、そしてそれに関わるカタカナ用語の整理です。

✔ まず用語を整理!「パルスレート」と「フレームレート」 🎬

血管造影装置には、X線を出す2つのモードがあります。

  1. 透視(Fluoroscopy): カテーテルを進めるために見る「ライブ映像」。
    • ここで使う単位が パルスレート (pps pulse/sec)
    • 「1秒間に何回、X線をパチパチ光らせるか」です。
  2. 撮影(Acquisition/Cine): 診断や治療記録のために撮る「高画質録画」
    • ここで使う単位が フレームレート (fps: frame/sec)
    • 「1秒間に何枚、写真を撮るか」です。

✔ 透視時のパルスレートを下げるとは? 📉

    これらは、体内の水や、タンパク質・脂質透視は、カテーテルを動かす長い時間ずっと踏み続けるものです。 このパルスレート(点滅回数)を減らせば、劇的に被ばくが減ります

    • 15 pps(滑らか)7.5 pps(少しカクカク) に設定変更。
    • X線の照射回数が半分になるので、被ばく線量も単純に半分(1/2)になります。
    • カテーテル操作に支障がない範囲で、できるだけパルスレートを下げるのがIVRの基本です。

    ✔ 各選択肢について

    1. 照射野を広くする。

    • 誤り
    • 照射野を広げると、当たる面積が増えるだけでなく、体内で散乱線が増加し、画質低下と被ばく増加を招きます。「必要な場所だけ絞る」が鉄則です。

    2.透視時間を長くする。

    • 誤り
    • 透視線量は時間に比例して増えます。「踏む時間は短く」が鉄則です。

    3.幾何学的拡大透視を多用する。

    • 誤り
    • 幾何学的拡大透視をすると、検出器に届くX線が減ってしまうため、装置は「暗くなった!パワーを上げろ!(自動露出制御)」と自動的にX線を強くしてしまいます。その結果、患者さんの皮膚線量が急増します。

    4.透視時のパルスレートを下げる。

    • 正解
    • 1秒あたりの照射回数を減らすことで、直接的に被ばくを低減できます。

    5.撮影時のフレームレートを上げる。

    • 誤り
    • 撮影(DSAやシネ)は、透視よりもはるかに強いX線を使います。 フレームレートを上げる(例:15fps → 30fps)ということは、高線量の写真を撮る枚数を倍にすることなので、被ばくは想像以上激増します。

    出題者の“声”

    この問題の狙いは、「滑らかな映像 = 良いこと」とは限らない、という放射線防護のセンスを問うことにある。

    映像は、パルスレートやフレームレートを上げれば上げるほど、パラパラ漫画の枚数が増えて滑らかに見える。しかし、その代償として被ばく線量は比例して増えるのじゃ。

    「見やすければいい」ではない。 「手技ができるギリギリまでレートを下げて、患者を守れるか」。 このプロのバランス感覚を持っているかを試しておるのじゃよ。


    臨床の“目”で読む

    ー技師の腕の見せ所!「フレームレート最適化」と「デジタルズーム」ー

    IVRの現場で、放射線技師はただ立っているわけではありません。術者の手技に合わせて、リアルタイムで設定を最適化しています

    • ① 撮影レートの最適化
      • 例えば、脳血管撮影をする時、動脈相(最初の数秒): 血流が速いので、高いフレームレートで細かく撮る。静脈相(後半): 血流がゆっくりなので、低いフレームレートに落として被ばくを抑える。 このように、1回の撮影の中でレートを切り替える(可変させる)ことで、画質と被ばく低減を両立させています。
    • ② 「幾何学的拡大」vs「デジタルズーム」
      • 問題文であえて「幾何学的」と書かれているのがミソです。
      • デジタルズーム画像処理で拡大するだけ → 線量は変わらない(安全)。 「先生、そこ拡大しますか?デジタルでいいですか?」と提案できるのが、デキる技師です。
    • ③ 術者とのコミュニケーション
      • 心臓のアブレーション治療など、カテーテルがあまり動かない手技では、透視レートを極限(3〜4pps)まで下げても問題ありません。術者と相談し、「手技に支障がない最低ライン」を見極めることが、技師の重要な役割です。

    今日のまとめ

    1. 透視(パルスレート)も撮影(フレームレート)も、値を下げると被ばくは減る
    2. 幾何学的拡大は、自動輝度制御(AEC)が働き、線量が急増するため多用してはいけない。
    3. 被ばくを変えずに拡大したい場合は、デジタルズームを使う。
    4. 臨床では、血流の速さに応じてフレームレートを変えるなど、きめ細かな調整を行っている。

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