胸部X線撮影で遠距離撮影を行う理由はどれか。
- 散乱線の減少
- 肩甲骨陰影の消失
- 呼吸停止時間の短縮
- 心臓陰影拡大の抑制
- 画像コントラストの向上
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.心臓陰影拡大の抑制
解説
この問題は、胸部レントゲン撮影の「鉄則」である、撮影距離(SID)を2m弱(約180cm〜200cm)も離して撮る理由を理解しているかを問う問題です。
✔ 結論:心臓を「実物大」で写したいから ❤️
レントゲン写真は、一種の「影絵」です。 影絵遊びを思い出してください。
- 手(被写体)を壁(フィルム)に近づけ、光源(X線管)を遠ざけると、影は実物と同じ大きさになります。
- 逆に、光源を手に近づけると、影は巨大化してぼやけてしまいます。
胸部撮影で最も重要なチェック項目の一つが、「心臓の大きさ(心胸郭比:CTR)」です。 心臓は体の前側(検出器から少し離れた位置)にあるため、普通に撮ると拡大されやすい臓器です。 もし距離が近いと、心臓が大きく写ってしまい、「心臓が肥大している病気(心不全など)」と間違われてしまう恐れがあります。
これを防ぐために、あえて距離(SID)を遠く(150〜200cm)離すことで、拡大率をできるだけ1倍に近づけ、「心臓を本来の大きさで写す」のです。
✔ 各選択肢について
1.散乱線の減少
- ✅ 正解
- 散乱線を減らすのは、距離ではなく「グリッドの使用」や「照射野を絞ること」、または「エアギャップ法(被写体とフィルムの間を空ける)」です。通常の遠距離撮影では、被写体とフィルムは密着させるため、散乱線低減効果はありません。
2.肩甲骨陰影の消失
- ❌ 誤り
- 肩甲骨が肺に重ならないようにするのは、距離ではなく「ポジショニング」の役割です。患者さんに「肩を前に出す(抱え込む)」姿勢をとってもらうことで、肩甲骨を肺野の外へ移動させます。
3.呼吸停止時間の短縮
- ❌ 誤り
- 距離を離すと、X線の強さは距離の2乗に反比例して弱くなります(逆2乗の法則)。 同じ濃さの写真にするには、X線を強くするか時間を長くする必要があるため、むしろ負担(管負荷)は増えます。呼吸停止時間とは無関係です。
4.心臓陰影拡大の抑制
- ✅ 正解
- 解説の通り、SIDを長く取ることで、心臓の幾何学的な拡大を最小限に抑え、正しい診断ができるようにします。
5.画像コントラストの向上
- ❌ 誤り
- コントラストを決めるのは主に「管電圧(kV)」や「グリッド」、「散乱線」です。距離を変えても、コントラストは実質的に変わりません。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「なぜ胸部だけ、わざわざ遠くから撮るのか?」という素朴な疑問に、理論的に答えられるかを問うことにある。
他の骨の撮影などは100cmが標準じゃが、胸部だけは180〜200cmが世界標準。
その理由はただ一つ。 「心臓を大きく写したくないから」。 これに尽きる。 心臓が大きく見えると、「心拡大あり」と誤診され、患者さんは不要な精密検査を受けることになってしまう。
たかが距離、されど距離。180cmという数字には、「誤診を防ぐ」という重い意味があるのじゃ。
臨床の“目”で読む

ーポータブル撮影(病室撮影)の落とし穴ー
病室で行うポータブル撮影では、装置のパワー不足や天井の高さの制限で、SIDを180cmも取れないことがよくあります(100〜120cm程度になりがち)。
すると何が起きるか?
- 心臓が大きく写る
- 距離が近いため、拡大率が大きくなります。
- 心拡大に見える
- 実際は正常なのに、写真上では心不全のように見えてしまうことがあります。
「距離が近ければ心臓はデカくなる」。これは臨床での画像評価の大前提です。
今日のまとめ
- 胸部撮影の標準距離(SID)は 180〜200cm である。
- 遠距離撮影を行う最大の理由は、心臓陰影の拡大を抑制し、実寸に近いサイズで写すため。
- 距離が近いと心臓が大きく写り、心拡大(心不全など)と誤診されるリスクがある。
- 肩甲骨の消失はポジショニング、散乱線除去はグリッドの役割であり、距離とは無関係。



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