最も高いCT値を示すのはどれか。
- 脳
- 肺
- 乳房
- 甲状腺
- 骨格筋
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.甲状腺
解説
この問題は、人体の各臓器がCT画像で「白く写るか、黒く写るか(CT値が高いか、低いか)」という、最も基本的な感覚を問う問題です。
✔ CT値のモノサシ:水=0、空気=-1000 📏
CT値(ハンスフィールド単位:HU)は、水を「0」、空気を「-1000」とした相対的な数値です。 基本ルールは以下の通りです。
- 密度が低い → X線を通す → 黒い(低い)
- 密度が高い・原子番号が大きい → X線をよく止める → 白い(高い)
✔ なぜ「甲状腺」だけ特別に高いのか?
通常、臓器(筋肉、脳、肝臓など)は水分とタンパク質でできているため、CT値は「40〜60 HU」程度(水より少し高いグレー)に収まります。 しかし、甲状腺だけは別格です。
- 理由:甲状腺ホルモンの材料である「ヨウ素(Iodine)」を大量に取り込んでいるから。
- 原理:ヨウ素は原子番号が大きく(Z=53)、バリウムや造影剤と同じようにX線を強力に吸収します。
- 結果:造影剤を使わなくても、自然に白く(80〜100 HU以上)写ります。
つまり甲状腺は「天然の造影剤を含んだ臓器」なのです。
✔ 各選択肢について
1.脳
- ❌ 誤り
- 約 20〜40 HU(グレー)。白質は脂質(油)が多いので少し低め、灰白質は少し高めです。
2.肺
- ❌ 誤り
- 約 -900 HU(ほぼ真っ黒)。空気が主成分のため最も低い。
3.乳房
- ❌ 誤り
- 約 -50 HU(濃いグレー)。脂肪は水より軽いため、マイナス値になります。
4.甲状腺
- ✅ 正解
- 約 80〜120 HU(白っぽいグレー)。断トツで高いです。
5.骨格筋
- ❌ 誤り
- 約 40〜50 HU(グレー)。筋肉は赤身(タンパク質)が詰まっているので、脳よりわずかに高い傾向があります。
出題者の“声”

この問題の狙いは、単に数字を暗記しているかではなく、「なぜその値になるのか」という物質的背景を知っているかを問うことじゃ。
- 肺 = 空気だから低い
- 乳房 = 脂肪だから低い
- 甲状腺 = ヨウ素があるから高い
この理屈さえ分かっていれば、細かい数字を忘れても、「甲状腺は天然の造影剤工場だ」というイメージで即答できるはずじゃ。 ちなみに、骨(+1000 HU)が選択肢にあればそれが一位じゃが、今回は軟部組織の中での戦いじゃな。
臨床の“目”で読む

ー「単純CT」で甲状腺を見逃すな!ー
私たちは、頸部(首)のCTを撮るとき、甲状腺が白く輝いているのを日常的に目にしています。 この「白さ(CT値の高さ)」は、臨床的に重要な意味を持ちます。
- 甲状腺疾患の発見
- もし、甲状腺のCT値が低い(黒っぽい)場合、それは甲状腺機能低下症や、甲状腺炎などでヨウ素の取り込みが落ちているサインかもしれません。
- 貧血のサイン?
- 逆に、血液中のヘモグロビン(鉄)濃度が高いと、血管や脾臓のCT値が上がることがあります。
- 異所性甲状腺
- 「舌の付け根に白い塊がある…腫瘍か?」と思ったら、実は迷子になった甲状腺(異所性甲状腺)だった、ということも、CT値が高ければ推測できます。
「白いはずのものが黒い」「黒いはずのものが白い」。この違和感に気づけるのが、CT値を理解している技師です。
今日のまとめ
- 甲状腺は、ヨウ素を多く含むため、CT値が最も高い(80〜120 HU)。
- 肺(空気)や乳房(脂肪)は、CT値が低い(マイナス)。
- 脳や筋肉は、水より少し高い程度(30〜50 HU)。
- CT値の高さは、密度と原子番号(ヨウ素など)で決まる。



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