MRI検査室の管理で正しいのはどれか。
- 撮影室内の照明は蛍光灯を使用する。
- 0.4T以下の装置では電波法の申請が不要である。
- 永久磁石型装置では強制クエンチ用排気スイッチを設置する。
- 電波シールドの設置目的は漏えい電波と外来電波の影響を防ぐためである。
- JIS規格では漏えい磁場が0.2mTを超える領域に立入制限の境界線を引く。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.電波シールドの設置目的は漏えい電波と外来電波の影響を防ぐためである。
解説
✔ MRI検査室:磁場と電波を管理する特殊な空間
MRI検査室は、ただの検査室ではありません。強力な静磁場と、画像撮像に用いる高周波電波(RF波)という2つの物理現象を、安全かつ精密にコントロールするために、特別な構造と設備を備えています。
✔ 電波シールドの役割:電波の「防音室」
正解の選択肢にもある電波シールド(RFシールド)は、MRI室の最も重要な設備の一つです。これは、検査室全体を銅板などで覆った、いわば「電波の防音室」です。その目的は2つあります。
- 外来電波の侵入防止
- 外部のテレビやラジオ、携帯電話などの電波が検査室に入ると、画像の深刻なノイズ(アーチファクト)の原因となります。これを防ぎ、画質を守ります。
- 漏えい電波の防止
- MRI装置自身が発する強力なRF波が外部に漏れると、他の医療機器に影響を与える可能性があります。これを防ぎ、院内の電波環境を守ります。
✔ 各選択肢について
1. 撮影室内の照明は蛍光灯を使用する。
- ❌ 誤り
- 蛍光灯や一般のLED照明は、その点灯回路からRFノイズを発生させるため、画像のノイズ源となります。
- MRI室内では、ノイズを発生しない白熱灯やMRI対応の特殊なLED照明が用いられます。
2.0.4T以下の装置では電波法の申請が不要である。
- ❌ 誤り
- 静磁場強度に関わらず、RF波を送信するMRI装置は電波法の「高周波利用設備」に該当するため、設置には総務省への届出(申請)が必要です。
3.永久磁石型装置では強制クエンチ用排気スイッチを設置する。
- ❌ 誤り
- クエンチとは、超伝導磁石の超伝導状態が破れ、磁場が急速に失われる現象です。この緊急時に極低温のヘリウムガスを安全に排出するための設備がクエンチ用排気設備であり、超伝導型装置にのみ必要です。
- 永久磁石は常に磁石であり、クエンチは起こりません。
4.電波シールドの設置目的は漏えい電波と外来電波の影響を防ぐためである。
- ✅ 正解
- 前述の通り、電波シールドは「内→外」と「外→内」の、双方向の電波干渉を防ぐ目的で設置されます。
5.JIS規格では漏えい磁場が0.2mTを超える領域に立入制限の境界線を引く。
- ❌ 誤り
- JIS規格で定められている立入制限の境界線は、5ガウス(= 0.5mT)ラインです。このラインの内側には、心臓ペースメーカなどを装着した人が立ち入らないように、警告表示などで厳格に管理する必要があります。
出題者の“声”

この問題は、MRIの撮像原理という派手なテーマの陰に隠れがちな、「検査室の構造と安全管理」という、地味じゃが極めて重要な知識を試ておる。
いくら高度な撮像法を知っておっても、検査室の扉を開けた瞬間に画質を劣化させるノイズが入ってきたり、5ガウスラインの管理を怠って事故を起こしたりしては、プロとは言えんからのう。
特に電波シールドについては、「外からのノイズを防ぐ」という画質面だけでなく、「中からの電波漏えいを防ぐ」という安全面も併せ持っておる。この「双方向の目的」を理解できておるかが、本質を分かっているかの証じゃ。
臨床の“目”で読む

MRI検査室の適切な管理は、安全な検査と高い画像品質を維持するための、放射線技師の日常的な重要業務です。
ーRFシールドの維持管理ー
MRI室の扉は、シールド性能を維持するための最も重要な部分であり、最も劣化しやすい部分でもあります。扉が完全に閉まっていなかったり、シールド材が劣化したりすると、そこから電波が侵入し、画像に特徴的な「ファスナーアーチファクト」と呼ばれる線状のノイズが現れることがあります。定期的な点検と、日々の確実な扉の開閉が重要です。
ー5ガウスラインの徹底ー
5ガウスラインは、「MRIの安全管理における最後の砦」とも言える重要な境界線です。私たちは、このラインを明確に表示し、検査を受ける患者さんだけでなく、付き添いの家族や他の医療スタッフも含め、検査室に入る全ての人に対して、体内に金属や電子デバイスがないかを厳しく確認する(問診する)責任があります。
ークエンチボタンの重みー
超伝導装置に設置されている緊急停止用のクエンチボタンは、「究極の非常ボタン」です。これを押すと、磁場は急速に停止しますが、同時に非常に高価な液体ヘリウムが全て失われ、復旧に多額の費用と時間がかかります。患者さんが磁石に吸着されて生命の危機に瀕している、といった本当に切迫した状況以外では、決して押してはならないものです。
今日のまとめ
- MRI室の電波シールドは、外部からのノイズ侵入防止と、内部からの電波漏えい防止の双方が目的である。
- MRI室の照明には、RFノイズ源となる蛍光灯は使えず、MRI対応の照明(白熱灯や専用LED)を使用する。
- 磁場に関する立入制限の境界線は5ガウス(0.5mT)ラインが基準となる。
- クエンチは超伝導型装置特有の現象であり、永久磁石型には関連設備は不要。
- 静磁場強度に関わらず、MRI装置の設置には電波法に基づく届出が必要である。
コメント