第77回 午後 18

核医学診療技術学

腎シンチグラフィで正しいのはどれか。

  1. 腎動態シンチグラフィでは分腎機能が評価できる。
  2. ⁹⁹ᵐTc-DMSAは腎尿細管から速やかに排泄される。
  3. ⁹⁹ᵐTc-MAG3は腎静態シンチグラフィに用いられる。
  4. 腎静態シンチグラフィではカプトプリル負荷が行われる。
  5. 腎排泄機能障害の症例では腎動態シンチグラフィは禁忌である。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.腎動態シンチグラフィでは分腎機能が評価できる。


解説

✔ 腎シンチグラフィ:2種類の検査目的

腎シンチグラフィには、目的が全く異なる2種類の検査があります。「動態(機能)」を評価する検査と、「静態(形態)」を評価する検査です。

  • 腎動態シンチグラフィ
    • これは、腎臓の機能を時間経過と共に評価する検査です。放射性医薬品が腎臓に集まり、尿として排泄されていく一連の過程(血流・集積・排泄)を、動画のように連続して撮像します。 これにより、左右の腎臓がそれぞれどれくらいの機能を持っているか、すなわち分腎機能(左右の腎機能の割合)を数値で評価できます。使用する薬剤は、腎臓を速やかに通過・排泄される ⁹⁹ᵐTc-MAG3 ⁹⁹ᵐTc-DTPA です。
  • 腎静態シンチグラフィ
    • これは、正常に機能している腎臓の組織の形態や分布を評価する検査です。 薬剤(⁹⁹ᵐTc-DMSA)が腎皮質に長時間とどまる性質を利用し、時間を置いてから静止画として撮影します。これにより、腎臓の一部に機能していない領域(腎瘢痕)がないか、腎臓の形態に異常がないかなどを評価します。

✔ 各選択肢について

1. 腎動態シンチグラフィでは分腎機能が評価できる。

  • 正解
  • 左右の腎臓がそれぞれどれだけの機能を持っているかを数値化して評価することは、腎動態シンチの最も重要な目的の一つです。

2.⁹⁹ᵐTc-DMSAは腎尿細管から速やかに排泄される。

  • 誤り
  • ⁹⁹ᵐTc-DMSAは、腎皮質の尿細管に長時間とどまる性質を持つため、腎臓の形態を評価する腎静態シンチに用いられます。

3.⁹⁹ᵐTc-MAG3は腎静態シンチグラフィに用いられる。

  • 誤り
  • ⁹⁹ᵐTc-MAG3は、腎臓を速やかに通過・排泄される性質を持つため、腎臓の機能を時系列で評価する腎動態シンチに用いられます。

4.腎静態シンチグラフィではカプトプリル負荷が行われる。

  • 誤り
  • カプトプリル負荷(ACE阻害薬負荷)は、腎血管性高血圧の診断のために行われる検査で、腎動態シンチと組み合わせて実施します。

5.腎排泄機能障害の症例では腎動態シンチグラフィは禁忌である。

  • 誤り
  • むしろ逆です。腎排泄機能障害(水腎症など)の重症度や、閉塞の有無を評価することは、腎動態シンチの良い適応です。

出題者の“声”

この問題は、「腎動態シンチと腎静態シンチを、その目的と薬剤で正しく使い分けられるか」を試す、核医学の基本問題じゃ。

学生が混乱しやすいのは、薬剤名と検査の対応じゃな。

  • DMSA → 静態(形態)
  • MAG3 / DTPA → 動態(機能)

この基本を混同させるように、わざと選択肢を入れ替えてある。
また、「カプトプリル負荷」や「禁忌」といった、いかにも重要そうな言葉をちらつかせて、知識が曖昧な者を惑わすのがワシの常套手段じゃ。

問いたい本質は、「腎動態シンチ=分腎機能がわかる」という、臨床上の最重要ポイントを即答できるかどうか。そこが分かっていれば、他の選択肢に惑わされることはないはずじゃ。


臨床の“目”で読む

臨床現場では、腎シンチグラフィは、特に泌尿器科や小児科領域で、腎臓ごとの機能評価や尿路通過障害の診断に欠かせない検査です。

  • 分腎機能評価の重要性
    • 片側の水腎症や腎がんなどで腎臓を摘出する手術の前に、残す方の腎臓だけで十分な機能が維持できるかを、52% : 48% のように客観的な数値で評価します。
    • 左右どちらの腎臓が、どの程度機能しているかを正確に把握することは、治療方針を決定する上で極めて重要です。
  • 腎静態シンチの役割
    • 腎静態シンチ(DMSA)は、成人ではあまり行われませんが、小児の尿路感染症後にできた腎臓の瘢痕(ダメージ)を評価する際には、非常に有用な検査として今も活用されています。

このように、動態と静態のどちらの検査を選択すべきか、その判断を誤らないためにも、それぞれの原理と目的を正しく理解しておく必要があるのです。


今日のまとめ

  1. 腎動態シンチグラフィ腎臓の機能を評価する検査。分腎機能(左右の腎機能の割合)を評価できる。
  2. 腎静態シンチグラフィ腎臓の形態(正常な組織の分布)を評価する検査。腎瘢痕の評価などに用いる。
  3. 薬剤の使い分け:動態には ⁹⁹ᵐTc-MAG3DTPA、静態には ⁹⁹ᵐTc-DMSA を使用する。
  4. カプトプリル負荷試験は、腎血管性高血圧を調べる腎動態シンチのオプション検査である。

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