¹⁸F–FDG PETで褐色脂肪への生理的集積と最も関連があるのはどれか。
- 運動
- 喫煙
- 肥満
- 高血糖
- 寒冷刺激
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
5.寒冷刺激
解説
✔ 褐色脂肪とは?:熱を産生する「特別な脂肪」 🔥
褐色脂肪(brown adipose tissue, BAT)は、主に熱を産生する役割を持つ特殊な脂肪組織です。
特に、体が寒冷刺激 ❄️ を受けると、交感神経系が活性化し、体温を維持するために褐色脂肪が活発に熱を作り出します(これを非ふるえ熱産生といいます)。
✔ なぜFDGが集まるのか?
褐色脂肪は、この熱産生のエネルギー源として、血液中からブドウ糖(グルコース)を大量に取り込みます。
¹⁸F-FDGはブドウ糖と非常によく似た物質であるため、活性化した褐色脂肪は、ブドウ糖と間違えて¹⁸F-FDGを盛んに取り込みます。 その結果、PET画像上では、強い生理的集積として描出されるのです。
この集積は、典型的には頸部、鎖骨上窩、傍脊椎、縦隔などに、左右対称性に見られるのが特徴です。
✔ 各選択肢について
1. 運動
- ❌ 誤り
- 検査前の運動は、ブドウ糖を消費する骨格筋へのFDG集積を著しく増加させますが、褐色脂肪集積の直接的な原因ではありません。
2.喫煙
- ❌ 誤り
- 喫煙が自律神経系に影響を与える可能性はありますが、褐色脂肪集積を亢進させる主要な因子とは考えられていません。
3.肥満
- ❌ 誤り
- 一般的に、褐色脂肪の量は成人になるにつれて、また肥満度が高いほど減少する傾向にあります。むしろ、痩せ型の若年者で集積が見られやすいです。
4.高血糖
- ❌ 誤り
- 高血糖の状態では、血液中のブドウ糖と¹⁸F-FDGが細胞に取り込まれる際に競合するため、むしろ褐色脂肪を含め、全身の臓器へのFDG集積は低下します。
5.寒冷刺激
- ✅ 正解
- 寒冷刺激は交感神経を介して褐色脂肪を活性化させ、熱産生のためのブドウ糖取り込みを亢進させる、最も主要な要因です。
出題者の“声”

この問題は、FDG-PETで遭遇する「生理的集積の落とし穴」を、その生理学的背景と共に正しく理解しておるかを試しておる。
腫瘍を探すPET検査では、腫瘍「以外」にFDGが集まる正常な現象を知っておくことが、誤診を防ぐ上で極めて重要じゃ。 その中でも褐色脂肪は、特に若年者ややせ型の患者でしばしば強い集積を示し、悪性リンパ腫などの悪性腫瘍と非常に紛らわしい像を呈する。
学生が引っかかりやすいのは「運動」や「高血糖」。これらも確かにFDG集積に影響を与える重要な因子じゃ。
しかし、褐色脂肪に特有の集積メカニズムと問われれば、その引き金が「寒冷刺激」であることを、即答できねばならん。
臨床の“目”で読む

ー偽陽性を防ぐための臨床的工夫ー
FDG-PETの臨床現場では、褐色脂肪への集積は読影の妨げとなるため、可能な限り抑制する工夫がなされています。 特に、頸部や縦隔領域に出現すると、悪性リンパ腫のリンパ節転移と誤認される可能性があるため、注意が必要です。
- 温度管理
- 検査待機室や検査室の室温を適切に管理し、患者さんが寒さを感じないようにする。
- 保温
- 検査前に暖かい格好をしてもらったり、待機中にブランケットを使用したりして、体を保温する。
- 薬剤投与
- 事前にβ遮断薬などを投与することで、交感神経の働きを抑え、褐色脂肪の活性化を抑制することもある。
このように、「褐色脂肪は寒さに反応する」という生理学的な知識は、検査の準備段階から読影エラーを防ぐために活かされている、極めて実践的な知識なのです。
今日のまとめ
- 褐色脂肪は、寒冷刺激 ❄️ に反応して熱を産生する特殊な脂肪組織である。
- 熱産生のエネルギー源としてブドウ糖を大量に消費するため、¹⁸F-FDGが強く集積する。
- この集積は頸部、鎖骨上窩、縦隔などに左右対称性に見られ、悪性腫瘍との鑑別が問題となる。
- 臨床現場では、検査室の保温やβ遮断薬の投与で集積を抑制する対策が取られる。
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