第77回 午後 23

基礎医学大要

ヒトパピローマウイルスが関与することが多いのはどれか。2つ選べ。

  1. 上咽頭癌
  2. 中咽頭癌
  3. 肝細胞癌
  4. 大腸癌
  5. 子宮頸癌

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


2.中咽頭癌
5.子宮頸癌


解説

✔ ヒトパピローマウイルス(HPV)と発がんのメカニズム

ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚や粘膜に感染する非常にありふれたウイルスです。ほとんどの場合は自然に排除されますが、一部のハイリスク型(特に16型、18型など)の感染が持続すると、がんを引き起こすことがあります。

そのメカニズムは、HPVが作り出すウイルス蛋白(E6、E7)が、ヒトの細胞が本来持っているがん抑制遺伝子(p53やRbなど)の働きを失わせることにあります。これにより、細胞増殖のブレーキが効かなくなり、無秩序な増殖が続いてがん化に至ると考えられています。

✔ ウイルスとがんの主な組み合わせ

  • ヒトパピローマウイルス (HPV)➡子宮頸癌、中咽頭癌
  • EBウイルス (EBV)➡上咽頭癌、バーキットリンパ腫
  • B型/C型肝炎ウイルス (HBV/HCV)➡肝細胞癌

✔ 各選択肢について

1. 上咽頭癌

  • 誤り
  • EBウイルスとの関連が非常に強いがんです。

2.中咽頭癌

  • 正解
  • 特に扁桃や舌根にできる中咽頭癌は、HPV感染が原因であることが近年増加しています。

3.肝細胞癌

  • 誤り
  • 主な原因は、B型肝炎ウイルス(HBV)C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染です。

4.大腸癌

  • 誤り
  • 主に食生活などの生活習慣や遺伝的な要因が関与しており、ウイルスとの直接的な関連は知られていません。

5.子宮頸癌

  • 正解
  • 発生のほとんどにHPV感染が関与していることが明らかになっており、HPVワクチンによる予防が可能です。

出題者の“声”

の問題は、「ウイルスとがんの正しい組み合わせを、正確に記憶しているか」を試す、知識問題の基本じゃ。

学生が混乱しやすいのは、同じ「頭頸部がん」でも、部位によって関連するウイルスが違う点。

  • 中咽頭癌 → HPV
  • 上咽頭癌 → EBウイルス

子宮頸癌=HPV」は多くの者が知っておる。だからこそ、もう一つの正解として中咽頭癌を選べるか、そして上咽頭癌というワナにひっかからないか、そこが合否の分かれ目じゃ。

この問題は、知識の正確性と、特に近年重要性が増しているHPV関連がんへの理解度を測るためのものなのじゃ。


臨床の“目”で読む

HPVが関連するがんは、その生物学的な特性から、診断や治療方針の決定においても特別な意味を持ちます。

ーHPVと子宮頸癌:予防と検診の重要性ー

子宮頸癌は、原因がHPV感染であることが明確なため、HPVワクチンの接種によって、がんそのものを予防できる可能性が高い、数少ないがんです。また、検診(細胞診やHPV検査)による早期発見と早期治療が極めて有効です。

ーHPVと中咽頭癌:予後と治療方針への影響ー

中咽頭癌において、HPVが原因のがん(HPV陽性)は、従来の喫煙や飲酒が原因のがん(HPV陰性)に比べて、放射線治療や化学療法の感受性が高く、予後が良いことが知られています。 このため、治療方針を決定する際には、まずHPVの感染の有無を調べることが標準的になっています。

将来的には、予後が良いHPV陽性のがんに対しては、副作用を軽減するために治療を弱める(治療強度のデ・エスカレーション)といった、個別化治療も検討されています。


今日のまとめ

  1. ヒトパピローマウイルス(HPV)との関連が強いがんは、中咽頭癌子宮頸癌である。
  2. 上咽頭癌EBウイルス肝細胞癌B型・C型肝炎ウイルスが主な原因である。
  3. HPV関連中咽頭癌は、非関連のがんに比べて予後が良好な傾向がある。
  4. 子宮頸癌は、HPVワクチンによって予防が可能な代表的ながんである。

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