第77回 午後 38

エックス線撮影技術学

硫酸バリウムを用いた注腸造影検査の適応で誤っているのはどれか。

  1. 大腸癌
  2. 大腸憩室
  3. 大腸穿孔
  4. 潰瘍性大腸炎
  5. 大腸ポリープ

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.大腸穿孔


解説

✔ バリウム注腸造影検査とは?

肛門から硫酸バリウムと空気を注入し、大腸の粘膜面をX線で撮影する検査です。大腸がんやポリープ、憩室(けいしつ)といった、大腸の形態的な異常を描出するのに非常に有用です。 硫酸バリウムは、X線を透過しない性質を持ち、体内で吸収されないため、消化管の形をくっきりと写し出すことができます。

✔ なぜ「大腸穿孔」が絶対禁忌なのか? ⚠️

穿孔とは、消化管の壁に穴が開いてしまう状態です。 この状態でバリウムを注入すると、バリウムが腸管の外(腹腔内)に漏れ出してしまいます。

腹腔内に漏れ出たバリウムは、体内で吸収・分解されないため、異物として残り続けます。その結果、激しい炎症(バリウム腹膜炎)や、臓器同士がくっついてしまう癒着を引き起こし、極めて重篤な合併症、場合によっては生命の危険につながる可能性があります。 そのため、大腸穿孔が疑われる、あるいはそのリスクが高い患者さんへのバリウム注腸は絶対に行ってはなりません

✔ 穿孔が疑われる場合は?

穿孔が疑われる状態でどうしても造影検査が必要な場合は、バリウムの代わりに水溶性ヨード造影剤(ガストログラフィン®など)を使用します。 水溶性造影剤は、万が一腹腔内に漏れても、体内に速やかに吸収・排泄されるため、バリウム腹膜炎のような重篤な合併症のリスクが低いという利点があります。


✔ 各選択肢について

1. 大腸癌

  • 誤り
  • 良い適応です。がんによる腸管の狭窄や、壁の不整などを詳細に評価できます。

2.大腸憩室

  • 誤り
  • 良い適応です。壁の一部が外に飛び出す「憩室」の数や大きさを確認できます。ただし、憩室に炎症が起きている(憩室炎)急性期は穿孔のリスクがあるため、慎重な判断が必要です。

3.大腸穿孔

  • 正解
  • 絶対禁忌です。解説の通り、重篤なバリウム腹膜炎を引き起こす危険があるため、絶対に行ってはいけません。

4.潰瘍性大腸炎

  • 誤り
  • 慎重な適応です。粘膜のびらんや潰瘍の範囲を評価できますが、炎症が非常に強い活動期は、検査の刺激で穿孔を誘発するリスクがあるため、原則として行いません。

5.大腸ポリープ

  • 誤り
  • 良い適応です。内視鏡検査の前段階のスクリーニングとして、隆起性の病変を描出するのに有用です。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「バリウム造影における、絶対禁忌を即答できるか」という、安全管理の基本中の基本を問うことにある。 数ある適応疾患の中に、一つだけ「絶対にやってはいけない」選択肢を混ぜておいた。それが「穿孔」じゃ。

学生が時に混同するのが、「炎症」と「穿孔」の危険度の違いじゃ。

  • 炎症性疾患の急性期 → 慎重に適応(原則禁忌)
  • 穿孔 → 絶対禁忌

この危険度のレベル感を、正しく理解しておるか。

臨床現場で、激しい腹痛を訴える患者さんに「穿孔の可能性」を考えず、ルーチンでバリウムを準備するようなことがあってはならん。「穿孔疑い=水溶性造影剤」という思考回路が、瞬時に働くか。そこが、プロとしての安全意識の分かれ目じゃ。


臨床の“目”で読む

ー放射線技師が担う「安全な造影検査」の責任ー

注腸造影検査の現場では、私たち放射線技師は、穿孔という重大な合併症を常に念頭に置き、検査の最初から最後まで安全管理の責任を負っています。

  • ① 事前情報の確認
    • 検査室に患者さんを迎える前に、カルテや依頼票で「急性腹症ではないか」「激しい腹痛や発熱はないか」「最近手術をしていないか」などを確認します。少しでも穿孔のリスクを感じたら、ためらわずに担当医に確認します。
  • ② 検査中の観察
    • バリウムを注入中に、患者さんが急な、あるいは非常に強い腹痛を訴えた場合は、穿孔のサインかもしれません。その際は、即座に注入を中止し、速やかに医師に報告します。
  • ③ 造影剤の適切な選択と準備
    • 検査の依頼内容に応じて、適切な造影剤(通常はバリウム、穿孔疑いなら水溶性)を準備するのは、放射線技師の重要な役割です。

安全な検査は、医師の指示を待つだけでなく、放射線技師が専門家として危険を予見し、積極的に関与することで初めて成り立つものです。


今日のまとめ

  1. 硫酸バリウムを用いた注腸造影検査は、大腸穿孔(またはその疑い)がある場合には絶対禁忌である。
  2. 穿孔時にバリウムを使用すると、重篤なバリウム腹膜炎を引き起こす危険がある。
  3. 穿孔が疑われる場合は、バリウムの代わりに、体内に吸収される水溶性ヨード造影剤を使用する。
  4. 穿孔は絶対ダメ、炎症の急性期は慎重に」という原則を遵守することが、安全な検査の第一歩である。

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