ヒトの細胞に存在しないのはどれか。
- 核
- 細胞壁
- リボソーム
- ミトコンドリア
- Golgi(ゴルジ)体
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.細胞壁
解説
✔ ヒト(動物)細胞と、植物・細菌細胞の決定的な違い
この問題を解く鍵は、ヒトを含む動物細胞と、植物細胞や細菌との構造的な違いを理解することです。 最大の違いは、細胞の一番外側にある「細胞壁」の有無です。
- ヒト(動物)細胞
- 最も外側は、物質の出入りを調節する柔軟な「細胞膜」です。硬い壁がないため、細胞は形を変えることができます。
- 植物細胞・細菌
- 細胞膜のさらに外側に、形を固定し、細胞を保護するための硬い「細胞壁」を持っています。
つまり、「細胞壁」は、ヒトの細胞には存在しない構造です。
✔ ヒトの細胞に存在する主な構造(細胞小器官)
- 核
- 遺伝情報(DNA)を保管する、細胞の司令塔
- リボソーム
- アミノ酸からタンパク質を合成する工場
- ミトコンドリア
- 酸素を使ってエネルギー(ATP)を生み出す発電所
- ゴルジ体
- 作られたタンパク質を加工・梱包し、輸送する物流センター
これらはすべて、生命活動に不可欠な、ヒトの細胞に存在する基本構造です。
✔ 各選択肢について
1. 核
- ❌ 誤り
- 存在する。細胞の設計図であるDNAが格納されています。
2.細胞壁
- ✅ 正解
- 存在しない。植物や細菌、真菌(カビなど)に見られる、ヒト細胞にはない硬い外壁です。
3.リボソーム
- ❌ 誤り
- 存在する。タンパク質を合成する重要な場です。
4.ミトコンドリア
- ❌ 誤り
- 存在する。細胞が活動するためのエネルギーを作り出します。
5.Golgi(ゴルジ)体
- ❌ 誤り
- 存在する。細胞内で作られた物質の輸送や修飾を担います。
出題者の“声”

この問題の狙いは、「動物・植物・細菌の細胞構造の違いを、明確に区別できるか」という、生物学の基本中の基本を問うことにある。
学生が最も混乱しやすいのが、「細胞膜」と「細胞壁」の違いじゃ。どちらも“外側にある膜”というイメージで捉えると、必ず間違える。
- 細胞膜
- 全ての細胞が持つ、柔軟な仕切り。物質の出入りをコントロールする。
- 細胞壁
- 植物や細菌などが持つ、硬い鎧。形を支え、細胞を守る。
この、「柔軟な仕切り(ヒトにもある)」と「硬い鎧(ヒトにはない)」という役割の違いさえ理解しておけば、これはサービス問題じゃ。
臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が細胞構造を知る必要があるのか?ー
細胞レベルの知識は、放射線が人体に与える影響や、画像診断の原理を根本から理解するための「基礎体力」となります。
- ① 放射線治療の標的は「核」
- 放射線治療がなぜ効くのか。それは、放射線が主に細胞の核にあるDNAを切断し、がん細胞の分裂能力を奪うからです。放射線感受性の違いも、このDNA修復能力の違いに基づいています。
- ② PET検査の原理は「ミトコンドリア」
- FDG-PET検査で、がんがなぜ光って見えるのか。それは、がん細胞が活発に増殖するために、ミトコンドリアでのエネルギー産生が非常に活発で、エネルギー源であるブドウ糖(FDG)を大量に取り込むからです。
- ③ 抗菌薬が効く理由は「細胞壁」
- 多くの抗菌薬(抗生物質)は、細菌が持つ細胞壁の合成を阻害することで効果を発揮します。私たちヒトの細胞には細胞壁がないため、抗菌薬は細菌だけを選択的に攻撃できるのです。
このように、細胞構造の違いを理解することは、放射線治療の作用機序から、PETの原理、さらには感染症の画像を見る上での背景知識にまで繋がる、極めて重要な知識なのです。
今日のまとめ
- ヒトの細胞に「細胞壁」は存在しない。これは植物や細菌などが持つ硬い外壁である。
- ヒトの細胞の最も外側は、柔軟な「細胞膜」である。
- 核、リボソーム、ミトコンドリア、ゴルジ体は、ヒトの細胞に存在する基本的な細胞小器官である。
- 細胞構造の理解は、放射線治療の作用機序(核)、PET検査の原理(ミトコンドリア)、抗菌薬の選択性(細胞壁)などを理解する上で不可欠である。



コメント