第77回 午後 45

基礎医学大要

Douglas〈ダグラス〉窩に隣接するのはどれか。

  1. 仙骨
  2. 恥骨
  3. 直腸
  4. 盲腸
  5. 下行結腸

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.直腸


解説

✔ ダグラス窩とは?:骨盤内の“最深部” 🩺

ダグラス窩とは、女性の骨盤内において、腹膜が最も深く落ち込んでいる部分の名称です。

正式名称は「直腸子宮窩(ちょくちょうしきゅうか)」といい、その名の通り、子宮の後ろと直腸の前の間に形成されるくぼみです。

  • 後方の壁: 直腸の前壁
  • 前方の壁: 子宮の後壁

✔ なぜ臨床で重要なのか?

仰向けの状態では、ダグラス窩は腹腔内(お腹の中)で最も低い位置になります。

そのため、腹腔内で出血が起きたり、腹水が溜まったりすると、液体は重力に従ってこの“最深部”に最初に集まってきます。

✔ 男性の場合は?

男性には子宮がないため、ダグラス窩は存在しません。

代わりに、直腸と膀胱の間に「直腸膀胱窩(ちょくちょうぼうこうか)」と呼ばれる同様のくぼみが存在します。


✔ 各選択肢について

1. 仙骨

  • 誤り
  • 骨盤の後壁を構成する骨で、ダグラス窩とは直接隣接しません。

2.恥骨

  • 誤り
  • 骨盤の前壁を構成する骨で、ダグラス窩からは最も離れた位置にあります。

3.直腸

  • 正解
  • ダグラス窩は、直腸の前壁と子宮の後壁の間に位置します。

4.盲腸

  • 誤り
  • 通常は右下腹部に位置しており、骨盤中央にあるダグラス窩とは隣接しません。

5.下行結腸

  • 誤り
  • 左の側腹部を下降する結腸であり、ダグラス窩とは位置が異なります。

出題者の“声”

この問題の狙いは、骨盤内の臓器を、ただの単語ではなく、三次元的な位置関係で理解しておるかを問うことにある。

「ダグラス窩」という名前だけ覚えても、腹膜という膜がどの臓器を覆い、どこで折り返して“くぼみ”を作っているのか。その立体像が頭に入っていなければ、応用が利かん。

最大のヒントは、「ダグラス窩=腹腔の最低位」という臨床的な意義じゃ。腹腔内に液体(血液、腹水、膿など)が溜まれば、重力で一番低い場所、つまりダグラス窩に集まる。その“受け皿”となっているのが直腸じゃ。

「骨盤内で一番低い場所はどこか?」と考えれば、自ずと答えは直腸にたどり着くはずじゃ。


臨床の“目”で読む

ー画像診断で「ダグラス窩の液体貯留」を探すー

私たち放射線技師がダグラス窩を意識するのは、主にCTや超音波検査で、腹腔内の異常な液体貯留(出血や膿など)の有無を評価する時です。

  • 救急CTでの役割
    • 交通事故などの外傷や、子宮外妊娠の破裂が疑われる患者さんのCTを撮影する際、まず骨盤内のダグラス窩に高吸収の液体(血液)が溜まっていないかを確認します。ここに液体があれば、腹腔内出血を疑う重要な初見となります。
  • 超音波検査での役割
    • 婦人科領域の超音波検査では、経腟プローブを用いてダグラス窩を詳細に観察します。卵巣からの排卵に伴う少量の生理的な液体から、卵巣嚢腫の破裂や骨盤内炎症性疾患(PID)による膿の貯留まで、液体の有無と性状を評価することが、診断の重要な手がかりとなります。

このように、ダグラス窩は「異常な液体が最初に溜まる場所」として、緊急時や婦人科疾患の画像診断において、常に注意を払うべき解剖学的ランドマークなのです。


今日のまとめ

  1. ダグラス窩は、女性の骨盤内で腹膜が最も深く落ち込んだ部分で、直腸と子宮の間に位置する。
  2. 仰臥位における腹腔の最低位であるため、出血や腹水、膿などが最初に貯留しやすい場所である。
  3. 男性の場合は、直腸と膀胱の間に「直腸膀胱窩」が存在する。
  4. CTや超音波検査において、ダグラス窩の液体貯留の有無を確認することは、救急疾患や婦人科疾患の診断において極めて重要である。

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