第77回 午後 54

基礎医学大要

肘静脈から注入した造影剤が最初に到達するのはどれか。

  1. 右心室
  2. 左心室
  3. 大動脈
  4. 肺静脈
  5. 肺動脈

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.右心室


解説

✔ 造影剤の旅:静脈から動脈への「一方通行」のルート 🫀

肘の静脈から注入された造影剤は、血液の流れに乗って体内を旅します。この旅のルートは、心臓を中心とした「一方通行」の決まった道順(=血液循環)です。

  1. 肘の静脈
  2. 右心系(静脈血の心臓)へ
    • 全身を巡って酸素を使い果たした血液(静脈血)が集まる場所です。 上大静脈 → 右心房 → 右心室
  3. 肺(ガス交換の場所)へ
    • 右心室から肺動脈を通って肺に送られ、二酸化炭素を捨てて新しい酸素を受け取ります。 肺動脈 → 肺 → 肺静脈
  4. 左心系(動脈血の心臓)へ
    • 酸素をたっぷり含んだキレイな血液(動脈血)が集まる場所です。 左心房 → 左心室
  5. 全身へ
    • 左心室から大動脈を通って、全身の臓器へ送り出されます。 大動脈 → 全身の動脈

この流れから、肘静脈から入った造影剤が、選択肢の中で最初に到達する心臓の部屋「右心室」であることが分かります。


出題者の“声”

この問題は、血液循環という、人体の最も基本的な「配管図」が頭に入っておるかを問う、超ド定番問題じゃ。

国家試験では、「造影剤」「カテーテル」「血栓」など、様々なものが血管内を移動する問題が出るが、その原理はすべてこの循環経路の理解にある。

右心系(静脈のゴール)と左心系(動脈のスタート)を混同しておる者は、ここで必ずつまずく。 以下のワンフレーズを、呪文のように覚えておけ。

「静脈 → 右心 → 肺動脈 →肺静脈→ 左心 → 動脈」

この流れさえ押さえておけば、どんな応用問題にも対応できるぞ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「造影剤の流れ」を知る必要があるのか?ー

この知識は、質の高い造影検査を安全に行うための「基礎体力」です。特に、撮影のタイミングを合わせる上で決定的に重要となります。

  • ① CT血管造影(CTA)の撮影タイミング
    • 例えば、「肺動脈」にできた血栓(肺塞栓症)を診断したい場合、造影剤がちょうど肺動脈に到達した瞬間を狙って撮影する必要があります。注入後、早すぎても遅すぎても、診断価値のない画像になってしまいます。循環のルートと速度を理解しているからこそ、最適な撮影タイミング(肺動脈相)を予測できるのです。大動脈や肝臓の動脈なども同様です。
  • ② 心臓カテーテル検査の理解
    • 心臓のカテーテル検査には、静脈からアプローチして右心系の圧を測る「右心カテーテル」と、動脈からアプローチして左心系や冠動脈を評価する「左心カテーテル」があります。この違いも、静脈血が右心に、動脈血が左心に流れるという基本原則が分かっていれば、すぐに理解できます。
  • ③ 造影効果の予測
    • 肝臓のように、動脈と門脈という2つの血管から栄養される臓器では、時間の経過と共に造影効果が複雑に変化します。血液循環の順序を把握していれば、「なぜこのタイミングで、この血管や臓器が濃く染まるのか」を論理的に理解し、病変の診断に役立てることができます。

今日のまとめ

  1. 肘の静脈から注入された造影剤は、上大静脈 → 右心房 → 右心室 の順で心臓に到達する。
  2. 血液循環の基本ルートは、「静脈 → 右心 → 肺 → 左心 → 動脈」である。
  3. 右心系静脈血を扱い、左心系動脈血を扱う。
  4. 放射線技師にとって循環経路の理解は、造影検査の撮影タイミングを決定し、検査の質を担保するための必須知識である。

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