第77回 午後 56

理工学・放射線科学

ヒトの細胞周期で正しいのはどれか。

  1. S期から次のS期までを間期と呼ぶ。
  2. 有糸分裂が行われるのはS期である。
  3. 細胞のM期はおよそ1分程度である。
  4. DNA複製酵素が活性化するとS期に移行する。
  5. 間期はG₀、G₁、G₂の3つの時期に分かれている。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.DNA複製酵素が活性化するとS期に移行する。


解説

✔ 細胞周期とは?:細胞の「成長と分裂のサイクル」 🧬

細胞周期とは、一つの細胞が分裂して二つになるまでの一連の流れのことです。このサイクルは、細胞が分裂するための準備を行う「間期」と、実際に分裂する「M期」に大きく分けられます。 間期はさらに、3つのステップに分かれています。

  • G₁期 (Gap 1)
    • DNAを複製するための準備期間。細胞が成長し、タンパク質などを合成します。
  • S期 (Synthesis)
    • DNAを複製し、遺伝情報を2倍にする最も重要な時期。
  • G₂期 (Gap 2)
    • 細胞分裂(M期)に向けた最終準備期間。

そして、準備が完了すると、実際に分裂するM期(Mitosis: 有糸分裂)へと移行します。 また、細胞分裂を一時的にストップしている「G₀期(休止期)」という状態もありますが、これはサイクルの外にある特別な休憩時間です。

✔ 各選択肢について

1. S期から次のS期までを間期と呼ぶ。

  • 誤り
  • 間期は、G₁期、S期、G₂期を合わせた期間を指します。「M期と次のM期の間」が間期です。

2.有糸分裂が行われるのはS期である。

  • 誤り
  • 有糸分裂が行われるのはM期です。
  • S期はDNAの複製が行われる時期です。

3.細胞のM期はおよそ1分程度である。

  • 誤り
  • ヒトの体細胞の場合、M期(分裂期)には約1時間かかります。

4.DNA複製酵素が活性化するとS期に移行する。

  • 正解
  • G₁期の終わりには、DNAの複製を開始するためのチェックポイントがあります。ここでDNA複製酵素(DNAポリメラーゼなど)が活性化されることが、S期へ移行するスイッチとなります。

5.間期はG₀、G₁、G₂の3つの時期に分かれている。

  • 誤り
  • 間期はG₁期、S期、G₂期の3つです。
  • G₀期は、細胞周期から外れた休止期を指します。

出題者の“声”

この問題の狙いは、細胞周期の各フェーズの「名前」と「役割」を、正確に結びつけて理解しておるかを問うことにある。 特に、各用語の定義を曖昧に覚えていると、ワナにはまる。

  • S期 = Synthesis(合成)→ DNAを複製する時期
  • M期 = Mitosis(分裂)→ 細胞が分裂する時期
  • 間期 = M期とM期の間の準備期間(G₁+S+G₂)
  • G₀期 = サイクルから外れた“休憩”

この、基本中の基本をセットで押さえておけば、これはサービス問題じゃ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が細胞周期を知る必要があるのか?ー

この知識は、放射線治療や核医学検査の原理を根本から理解するために不可欠です。

  • ① 放射線感受性の違い
    • 細胞は、周期のどの段階にいるかによって、放射線に対する弱さ(放射線感受性)が異なります。一般的に、細胞分裂の準備中〜分裂中のG₂期とM期が最も放射線に弱く、DNAを複製しているS期後期は比較的強い(抵抗性がある)とされています。この感受性の違いが、放射線治療の効果に影響します。
  • ② 核医学検査(PET)での応用
    • がんの増殖能を評価する¹⁸F-FLT PET検査は、この細胞周期を応用したものです。FLTは、S期で盛んに行われるDNA合成の際に取り込まれるため、FLTの集積が強いがんほど、細胞分裂が活発であると評価できます。
  • ③ 抗がん剤との関連
    • 抗がん剤の中には、特定の周期の細胞だけを攻撃するものがあります(例: S期に効く薬、M期に効く薬)。放射線治療とこれらの薬剤を組み合わせる際には、それぞれの作用機序を理解しておくことが重要です。

今日のまとめ

  1. 細胞周期の正しい順序は G₁期 → S期 → G₂期 → M期 である。
  2. 間期は、G₁期、S期、G₂期を合わせた期間を指す。
  3. DNAの複製S期で、細胞分裂M期で行われる。
  4. G₀期は、細胞周期から外れた休止期である。
  5. 細胞周期の理解は、放射線感受性や、¹⁸F-FLT PETなどの検査原理を理解する上で不可欠。

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