第77回 午後 64

第77回

超音波の減衰で正しいのはどれか。

  1. 音速に依存する。
  2. 媒質の粘性に依存しない。
  3. 減衰量は周波数に反比例する。
  4. 減衰量は媒質の厚さに反比例する。
  5. 吸収された超音波のエネルギーは熱に変換される。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


5.吸収された超音波のエネルギーは熱に変換される。


解説

✔ 超音波の「減衰」とは?:進むほど弱くなる音のエネルギー 🌊

超音波が体内を進むとき、進む距離が長くなるにつれて、そのエネルギーが失われて弱くなります。この現象を「減衰」と呼びます。 減衰が起こる主な原因は3つあります。

  • 吸収エネルギーがに変わること。
  • 散乱エネルギーが四方八方に散らばること。
  • 反射:組織の境界面でエネルギーが跳ね返ること(これがエコー画像の元になります)。

✔ 「吸収」が減衰の最大の原因

減衰の要因の中で、最も大きな割合を占めるのが「吸収」です。 超音波(音波)は、媒質(体)の分子を振動させます。このとき、分子同士がこすれ合う粘性(ねばりけ)によって摩擦熱が発生します。 つまり、超音波の運動エネルギーが、熱エネルギーに変換されて失われていくのです。

✔ 減衰と「周波数」「距離」の重要な関係

超音波の減衰を理解する上で、最も重要な2つのルールがあります。

  1. 周波数との関係
    • 減衰の度合いは、周波数に比例します。
      • 高周波(細かい波) = 振動数が多い = 摩擦熱が多く発生 = 減衰しやすい(浅くしか届かない)
      • 低周波(ゆるい波) = 振動数が少ない = 摩擦熱が少ない = 減衰しにくい(深く届く)
  2. 距離との関係
    • 減衰は、媒質の厚さ(距離)に比例して大きくなります。
    • 厳密には指数関数的な減少ですが、距離が長くなるほど弱くなるという関係は同じです

✔ 各選択肢について

1. 音速に依存する。

  • 誤り
  • 音速は「伝わる速さ」を決めるもので、「弱まりやすさ(減衰)」とは別の物理量です。

2.媒質の粘性に依存しない。

  • 誤り
  • むしろ大いに依存します。粘性(ねばりけ)こそが、超音波のエネルギーを熱に変える「摩擦」の原因だからです。

3.減衰量は周波数に反比例する。

  • 誤り
  • 上記ルールの通り、周波数に比例します。

4.減衰量は媒質の厚さに反比例する。

  • 誤り
  • 媒質が厚いほど、エネルギーを失う距離が長くなるため、減衰は大きくなります。

5.吸収された超音波のエネルギーは熱に変換される。

  • 正解
  • 吸収によるエネルギー損失は、媒質の粘性による摩擦熱として消費されます。

出題者の“声”

この問題の狙いは、「超音波の減衰とは何か」を、その物理現象と臨床応用(プローブの使い分け)の両面から理解しておるかを問うことにある。

特に、「吸収=熱変換」という原理は、診断だけでなく、HIFU(ハイフ)のような治療応用の基礎ともなる。

そして、学生が絶対に覚えねばならんのが、この鉄則じゃ。

  • 「高周波 = 高解像度だが、浅くしか届かない」
  • 「低周波 = 低解像度だが、深く届く」

このトレードオフの関係こそ、超音波物理の神髄なのじゃ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師が「超音波の減衰」を理解する必要があるのか?ー

それは、私たちが日常的に行う「プローブ(探触子)の選択」「画像調整」の、まさに根幹となる原理だからです。

  • プローブの選択(周波数の決定)
    • なぜ甲状腺や乳腺を見るときは高周波プローブを使い、肝臓や腎臓を見るときは低周波プローブを使うのか?
    • 高周波 (7-12 MHz)
      • 減衰が激しいため深部は見えないが、分解能が非常に高い。→ 体表に近い浅い臓器に最適。
    • 低周波 (2-5 MHz)
      • 減衰が少なく深部まで届くが、分解能は粗くなる。→ 肝臓や腎臓など深い臓器に最適。
    • この「解像度 vs 透過度」のトレードオフを理解し、目的に合った周波数を選ぶことが、超音波検査の第一歩です。
  • TGC(深さ方向の感度補正)
    • 超音波装置についている、スライダー(つまみ)が縦に並んだTGC(Time Gain Compensation)は、この「減衰」を補正するための機能です。深いところほど減衰が大きくなるため、TGCで深部のゲイン(増幅度)を意図的に強くすることで、浅いところから深いところまで均一な明るさの画像を作ることができます。
  • ③ HIFU(ハイフ)
    • 高強度集束超音波(HIFU)という治療法は、まさに「吸収=熱変換」の原理を利用し、超音波エネルギーを一点に集中させてがん組織などを焼灼(しょうしゃく)するものです。

今日のまとめ

  1. 超音波の減衰とは、体内を進むにつれてエネルギーが失われる現象で、その主な原因は「吸収」である。
  2. 吸収された超音波のエネルギーは、熱に変換される。
  3. 減衰は、周波数が高いほど、また距離が長いほど、強くなる。
  4. この原理により、臨床では「高周波=浅部・高解像度」「低周波=深部・低解像度」というプローブの使い分けが行われる。

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