第77回 午後 69

理工学・放射線科学

放射線源からの放射線を測定するとき、測定時間 t の全計数値を N とする。

標準偏差を含む計数率はどれか。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)



解説

この問題は、放射線測定の「不確かさ(ゆらぎ)」を、「全計数値」から「計数率」へ、正しく計算できますか? という問題です。 数式にアレルギーを起こさず、以下のステップで考えてみましょう。

✔ すべての出発点:全計数値(N)の“ゆらぎ”

放射線は、ポツ…ポツ…とランダムに飛んできます(ポアソン分布)。 そのため、測定時間 t で、たまたま N 回カウントできたとしても、この N という値は、測定のたびに必ずゆらぎます。

そして、この「ゆらぎ」の大きさ(=標準偏差)には、鉄板のルールがあります。

N 回カウントした測定のゆらぎは √N 回 である」

つまり、測定した「全計数値」とその「ゆらぎ」をセットで表すと、 N ± √N となります。(※この時点で選択肢1は、「計数率」ではなく「計数値」の話なので誤りと分かります)

✔ 最重要ポイント:「計数率」への誤差の伝播

次に、私たちが知りたい計数率(1秒あたりのカウント数)を求めます。 計数率は、全計数値を時間で割って算出します。

計数率 (R)= 全計数値 (N) / 測定時間 (t)

ここで、最も重要なポイントです。 「計数値」を「計数率」にするために時間 t で割ったのですから、その「ゆらぎ √N」も、同じ t で割ってあげなければ、単位が合いません。

  • 計数率N / t
  • 計数率のゆらぎ√N / t

✔ 結論:2つを合体させる

したがって、「計数率」とその「ゆらぎ(標準偏差)」をセットで表すと、選択肢4が正解となります。


出題者の“声”

この問題は、数式を見ただけで思考停止してしまう者をふるいにかける、典型的な問題じゃ。

しかし、本質は非常にシンプル。「放射線計測の“ゆらぎ”の基本ルール √N を知っているか」、そして「計数率(N/t)を求めるとき、誤差 √N もちゃんと t で割ったか」という、論理の正確さを問うておる。

3番を選んでしまった者は、最も典型的なワナにはまっておる。単位の違うもの同士は、足したり引いたりできない。これは物理学以前の、算数の大原則じゃ。

「カウント数/秒」と「カウント数」を平気で足し引きする答案は、放射線測定の基本を理解していないと即座に判断されるぞ。


臨床の“目”で読む

ーなぜ √N(ゆらぎ)を知ることが重要なのか?ー

この「√N」という統計的なゆらぎは、私たちが扱う放射線測定値が「本物か、誤差か」を判断するためのものさしになるからです。

  • 汚染検査での判断
    • サーベイメータである場所のバックグラウンド(BG)を測定したら、100カウントだったとします。
    • √N のルールから、このBGのゆらぎは 100 = 10 カウント程度あると分かります。つまり、何もなくても90〜110カウント程度は普通に測定されうる、ということです。
    • 次に、汚染が疑われる場所を測って115カウントだったら?
    • BGとの差は15カウントですが、ゆらぎが10カウントあることを考えると、これは「誤差の範囲内かもしれない」と判断できます。
    • しかし、もし150カウントだったら?
    • 差は50カウントあり、ゆらぎの10カウントより遥かに大きいため、これは「誤差ではなく、有意な汚染がある」と断定できます。
  • 装置の安定性確認(QA)
    • 毎日行う核医学装置の感度チェック(デイリーチェック)で、√N の範囲を大きく超える変動が続くようであれば、装置の故障を疑うきっかけになります。

今日のまとめ

  1. 放射線の「計数値」には、統計的なゆらぎ(標準偏差)が常にあり、その大きさは √N である。
  2. 「計数率」とそのゆらぎを求めるには、両方を測定時間 t で割る。
  3. このゆらぎの大きさは、臨床現場で測定値が「誤差」なのか「意味のある変化」なのかを判断する基準となる。

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