高エネルギーX線の深部量百分率曲線(PDD曲線)の図を示す。
正しいのはどれか。
ただし、照射野は全て等しいものとする。


出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
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解説
この問題は、一見すると5つの似たグラフが並んでおり、グラフの形を暗記していないと解けないように思えます。しかし、高エネルギーX線の「3大原則」さえ知っていれば、論理的に正解を「見つけ出す」ことができる、典型的な良問です。
✔ PDD曲線とは?:X線が体内でどう減衰するかを示す「性能グラフ」 📈
PDD (Percentage Depth Dose)とは、X線ビームが水(人体と見なす)に入射したとき、線量が最も強くなる点(最大線量点 Dmaxを100%として、それより深い場所での線量が何%に減衰していくかを示したグラフです。 このグラフの「形」を見れば、そのX線ビームの「個性」が一目でわかります。
✔ 高エネルギーX線の「3大原則」
X線のエネルギーが高くなる(例: 4MV → 6MV → 10MV)と、「透過力(貫通力)」が強くなります。その結果、PDD曲線には以下の3つの明確な変化が現れます。
- 原則1:表面線量が「低く」なる(スキン・スペアリング)
- エネルギーが高いほど、電子をより「前方(深い方)」へ弾き飛ばします。その結果、入射点である表面(深さ0mm)の線量は相対的に低くなります。
- 正しい順序: 4MV > 6MV > 10MV (4MVが一番皮膚に線量が当たる)
- 原則2:ピークDmaxが「深く」なる(ビルドアップ)
- 「原則1」の理由と同じで、電子が前方に飛ぶ力が強いため、線量が最大になるピーク地点も、より深い位置に移動します。
- 正しい順序: 10MV > 6MV > 4MV (10MVが一番ピークが深い)
- 原則3:深部での減衰が「ゆるやか」になる(透過性)
- エネルギーが高いほど「透過力」が強いため、ピークを過ぎた後もエネルギーが深くまで届き、線量の減衰がゆるやかになります。
- 正しい順序: 10MV > 6MV > 4MV (10MVが一番深くまで届く)
✔ 3大原則で、ニセモノのグラフを消去する
この3つの原則(チェックリスト)を使って、5つの選択肢を判定してみましょう。
- 選択肢1、2、3は表面(深さ 0mm)での線量が一致しているため「原則1」に反するため除外
- 選択肢5は全ての原則の真逆のグラフとなるため除外
- 選択肢4のみすべての原則を満たす正解のグラフ
出題者の“声”

この問題の狙いは、「エネルギーと透過力の関係」を、PDD曲線の「形」として正しく認識できるかを問うことにある。
これは丸暗記の問題ではない。「高エネルギーほど、深く突き刺さる」という、物理の直感さえあれば解ける問題じゃ。
- 高エネルギー = 貫通力が強い
- → ピーク(Dmax)が深い
- → 深部での減衰がゆるい
そして「高エネルギーほど表面線量が下がる(スキン・スペアリング)」という3大原則を知っておるか。それだけで、毎年多くの受験生が正解と不正解に分かれる。
グラフを見た瞬間に、この3つのポイントをチェックする癖をつけておけば、絶対に落とさないぞ。
臨床の“目”で読む

ーなぜ放射線技師がPDD曲線を理解する必要があるのか?ー
このPDD曲線の「形」の違いこそが、放射線治療でエネルギーを使い分ける理由そのものだからです。
- ① 腫瘍の深さに応じたエネルギー選択
- 4MV、6MV
- ピークが浅く、皮膚表面に近い線量も比較的高いため、頭頸部や乳房など、比較的浅い位置にある腫瘍の治療に用いられます。
- 10MV以上
- ピークが深く、深部までエネルギーが届くため、前立腺や子宮頸がんなど、体の奥深くにある腫瘍の治療に用いられます。
- 4MV、6MV
- ② 皮膚(正常組織)の保護
- 高エネルギーX線(特に10MV)は、ピークが深いため、皮膚表面の線量(表面線量)を低く抑えることができます。これにより、治療の副作用である皮膚炎を軽減する効果があります(スキン・スペアリング効果)。
- ③ 治療計画(TPS)の基礎
- 私たちがコンピュータ(TPS)で作成する線量分布は、このPDDのデータが基礎となっています。PDDの原理を理解していなければ、コンピュータが計算した結果が妥当かどうかを判断できません。
今日のまとめ
- 高エネルギーX線のPDD曲線には、エネルギーの違いによって決まる「3大原則」がある。
- 原則1 (表面線量):高エネルギーほど低くなる (4MV > 6MV > 10MV)
- 原則2 (ピーク深さ):高エネルギーほど深くなる (10MV > 6MV > 4MV)
- 原則3 (透過性):高エネルギーほど高くなる(減衰がゆるい) (10MV > 6MV > 4MV)
- 臨床では、このPDD特性を利用し、腫瘍の深さに応じてエネルギーを使い分ける。



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