【第76回 午前 16】スナイパー?爆弾?頭脳派?脂肪抑制の3つの流派

第76回

MRI の脂肪抑制法で正しいのはどれか。

  1. CHESS 法は T1 値の影響を受ける。
  2. STIR 法は周波数選択的に脂肪信号を抑制する。
  3. CHESS 法では最初に 180 度の RF パルスを印加する。
  4. Dixon 法は in-phase における脂肪抑制効果を利用する。
  5. STIR 法は CHESS 法より磁場の不均一性の影響を受けにくい。

出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)


5.STIR 法は CHESS 法より磁場の不均一性の影響を受けにくい。


解説

✔ 脂肪を消す「3つの流派」をキャラで覚えよう!

MRIの脂肪抑制法は、仕組みの違いで大きく3つのタイプに分けられます。 それぞれの「得意・不得意」をイメージで掴みましょう。

  • 流派①:CHESS法(周波数選択法)
    • キャラ:スナイパー(狙撃手)
    • 水と脂肪のわずかな回転スピードの違い(周波数差)を見極め、「脂肪の周波数だけ」をピンポイントで狙い撃ちして消します。
    • 弱点:磁場の乱れると、狙いが外れて脂肪が消え残ります(不均一に弱い)。
  • 派②:STIR法(T1短縮反転回復法)
    • キャラ:時限爆弾(タイマー)
    • 最初に180度パルスで全員をひっくり返し、脂肪が起き上がってくる「時間(短いT1)」を見計らって撮影します。周波数は関係ありません。「時間」だけが勝負です。
    • 強み:どんなに磁場が乱れていても(金属があっても)、時間さえ来れば確実に脂肪を吹き飛ばします(不均一に最強)。
  • 流派③:Dixon法(位相差法)
    • キャラ:計算高い頭脳派
    • 撮影後に「計算」で脂肪を消すタイプです。水と脂肪の信号がズレる(位相が変わる)性質を利用して、「In-phase(同位相)」「Out-of-phase(逆位相)」の2枚の画像を撮り、それらを足し算・引き算することで「水だけの画像」と「脂肪だけの画像」を数学的に分離します。
    • 強み:磁場の乱れにも強く、画質も良い「いいとこ取り」の手法です。

✔ 各選択肢について

1.CHESS 法は T1 値の影響を受ける。

  • 誤り
  • CHESS法が使うのは「周波数(ケミカルシフト)」です。 脂肪の周波数に合わせて90度パルスを打ち込む方法であり、T1値(時間)は利用しません。

2.STIR 法は周波数選択的に脂肪信号を抑制する。

  • 誤り
  • STIR法が使うのは「T1緩和時間」です。 周波数に関係なく、T1が短い組織(脂肪)の信号を消します。だから磁場が乱れて周波数がズレていても成功するのです。

3.CHESS 法では最初に 180 度の RF パルスを印加する。

  • 誤り
  • 最初に180度パルス(反転パルス)を使うのは、STIR法です。
  • CHESS法は、脂肪だけを倒すための「90度パルス(周波数選択的飽和パルス)」を最初に印加します。

4.Dixon 法は in-phase における脂肪抑制効果を利用する。

  • 誤り
  • Dixon法の計算ロジックに関する選択肢です。
  • 水と脂肪の信号が打ち消し合って「黒い縁取り」が出るのは、波が逆向きになる「Out-of-phase(逆位相)」の画像です。 Dixon法は、このOut-of-phase画像とIn-phase画像を組み合わせて計算(加減算)を行います。「In-phase単独の抑制効果」ではありません。

5.STIR 法は CHESS 法より磁場の不均一性の影響を受けにくい。

  • 正解
  • これぞSTIR法の最大のメリットです! CHESS法は、磁場が均一でないと狙いがズレて失敗します。 一方、STIR法は、磁場が乱れていようが関係ありません。脂肪のT1時間さえ合っていれば、確実に信号を消せます。
  • 金属インプラントが入っている患者さんや、首・肩などの複雑な形状の部位では、STIR法が最強の選択肢となります。

出題者の“声”

この問題は、脂肪抑制の「原理」と「弱点」をセットで理解しているかを問うておる。

学生さんはよく「CHESSとSTIR、どっちがどっちだっけ?」と混乱する。 覚え方のコツを教えよう。

  • CHESS(チェス)は、Chemical(化学シフト=周波数)を使う。
  • STIR(スター)は、Short TI(短いTI時間)を使う。

そして、臨床で一番困るのは「磁場の乱れ(不均一)」じゃ。 CHESSは繊細なスナイパーだから、磁場の乱があると当たらない。

STIRは豪快な時限爆弾だから、磁場が乱れようがお構いなしに吹き飛ばす(ただし、脂肪以外の組織も巻き添えにするがな)。

このキャラクターの違いをイメージできれば、選択肢5の正解が見えるはずじゃよ。


臨床の“目”で読む

現場では、この知識をフル活用して「撮り分け」をしています。

  • 1. 基本はCHESS(Spectral)
    • お腹や骨盤など、広い範囲をきれいに撮りたい時は、S/N比(画質)が良いCHESS法(最近は進化したSpectral法など)を使います。STIR法は画質が少しザラつくので、できればCHESSで撮りたいのです。
  • 2. 「整形外科」ならSTIR一択!
    • 「人工関節が入っています」「ボルトが入っています」という患者さんが来たら、迷わずSTIR法を選びます。 金属の周りでは磁場がグニャグニャに歪んでいるため、CHESS法を使うと脂肪が消えずに残ったり、逆に水が消えてしまったりして、診断になりません。 どんなに磁場が乱れていても、黒く塗りつぶしてくれるSTIRは、整形領域の守護神です。
  • 3. 第3の選択肢「Dixon法」
    • 最近のトレンドは選択肢4のDixon(ディクソン)法です。 これは計算で脂肪を消すので、磁場の乱れにも強く、しかもS/N比が良い(画質が良い)という、CHESSとSTIRの「いいとこ取り」の方法です。 計算に少し時間がかかりますが、最新の装置ではDixonが標準になりつつあります。

今日のまとめ

  1. CHESS法:周波数選択法。画質は良いが、磁場不均一に弱い
  2. STIR法:T1短縮法(反転回復)。画質は劣るが、磁場不均一に極めて強い
  3. Dixon法:位相差を利用した計算処理。均一性に強く画質も良い。

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