【第76回 午前 33】血流・代謝・神経…?心臓の状態を色で分けるトレーサーの秘密

核医学診療技術学

心臓核医学検査で正しいのはどれか。

  1. 99mTc-MIBI は急性心筋梗塞巣に集積する。
  2. 201TlCl は受動拡散によって心筋に取り込まれる。
  3. 123I-MIBG は心筋の脂肪酸代謝を画像化している。
  4. 99mTc-テトロホスミンは狭心症の診断に用いられる。
  5. 123I-BMIPP は心筋の交感神経活性を画像化している。

出典:厚生労働省公開PDF(令和6年版)


4.99mTc-テトロホスミンは狭心症の診断に用いられる。


解説

✔ 心臓核医学の「4つの引き出し」

心臓の検査薬は、バラバラに覚えるのではなく、「何を見たいか?」4つに分けてしまいましょう。

  • 【①:血流を見る】
    • 目的:狭心症、心筋梗塞の診断
    • 薬品201Tl(タリウム)99mTc-MIBI99mTc-テトロホスミン
    • 画像:血流がないところが「欠損(コールドスポット)」として写る。
  • 【②:代謝を見る】
    • 目的:虚血メモリー(以前の発作の痕跡)の診断
    • 薬品123I-BMIPP(脂肪酸)、18F-FDG(糖)
    • 画像:代謝が落ちているところが欠損する。
  • 【③:神経を見る】
    • 目的:心不全の重症度、レビー小体型認知症の診断
    • 薬品123I-MIBG(ノルアドレナリン類似物質)
    • 画像:交感神経機能が落ちると集まらなくなる。
  • 【④:壊死を見る】
    • 目的:急性心筋梗塞の診断
    • 薬品99mTc-PYP(ピロリン酸)
    • 画像:壊死した心筋にだけ集まる「ホットスポット」撮像。

✔ 各選択肢について

この問題は、上記の「引き出し」の中身がシャッフルされています。正しい棚に戻していきましょう。

1.99mTc-MIBI は急性心筋梗塞巣に集積する。

  • 誤り
  • MIBIは「血流」製剤です。血流に乗って、元気な心筋(ミトコンドリア)に集まります。 心筋梗塞巣(死んだ心筋)には血が通わないので、集積せず「欠損(写らない)」となります。
  • 梗塞巣に「集積(ホットスポット)」するのは、99mTc-PYP(ピロリン酸)です。

2.201TlCl は受動拡散によって心筋に取り込まれる。

  • 誤り
  • 201Tl(タリウム)は、カリウム(K)に性質が似ています。 細胞膜にある「Na-Kポンプ(ATP分解酵素)」によって、エネルギーを使って能動的に取り込まれます。これを「能動輸送」といいます。
  • 「受動拡散」で入るのは、99mTc-MIBIやテトロホスミンの方です。

3.123I-MIBG は心筋の脂肪酸代謝を画像化している。

  • 誤り
  • MIBGは、神経伝達物質「ノルアドレナリン」のそっくりさんです。 よって、「心臓交感神経」の機能を画像化します。
  • 脂肪酸代謝を見るのは、選択肢5のBMIPPです。

4.99mTc-テトロホスミンは狭心症の診断に用いられる。

  • 正解
  • テトロホスミンは、MIBIと同じグループ(Tc製剤)の「心筋血流シンチ」用薬剤です。 狭心症(虚血)がある場所は血流が悪いので、薬が集まらずに欠損像となり、診断できます。

5.123I-BMIPP は心筋の交感神経活性を画像化している。

  • 誤り
  • BMIPPは、側鎖脂肪酸という「脂肪」です。 心筋は普段、脂肪をエネルギーにして動いています。 BMIPPは「脂肪酸代謝」を画像化します。
  • 交感神経を見るのは、選択肢3のMIBGです。

出題者の“声”

この問題は、心臓核医学の「トレーサー名」と「集積原理」の組み合わせを、完璧に整理できているかを試しておる。

よくやる間違いがこれじゃ。

  • 「MIBI(ミビ)」と「MIBG(ミベグ)」の混同。
  • 「血流が悪いところ」が「光る」のか「消える」のかの勘違い。

基本は「元気なところに集まる(ポジティブ像)」じゃ。 血流も、代謝も、神経も、正常なら集まる。病気なら集まらない(欠損する)。 唯一の例外が、ピロリン酸(PYP)じゃ。こいつだけは「死んだところに集まる(ホットスポット)」。 この例外さえ押さえておけば、あとは「正常=集積」で統一して覚えられるぞ。


臨床の“目”で読む

現場では、これらの薬を非常に巧妙に使い分けています。

  • 「MIBI / テトロ」 vs 「Tl(タリウム)」
    • どちらも血流を見ますが、画質はTc製剤(MIBI/テトロ)の方が圧倒的にきれいです。 しかし、タリウムには「再分布(Washout)」という特殊能力があります。 一度心筋に入った後、時間が経つと「血流が悪かった場所にも遅れて染み渡る」性質があり、これ一発で「心筋がまだ生きているか(バイアビリティ)」まで分かります。 Tc製剤には再分布がないので、運動負荷時と安静時の2回注射が必要です。
  • 「BMIPP乖離(ミスマッチ)」
    • 狭心症の発作が起きてから数日経つと、血流は元に戻ります。 すると、血流シンチ(TlやMIBI)を撮っても「正常」に写ってしまい、診断できません。 そこでBMIPP(脂肪代謝)の出番です。 心筋は、一度ダメージを受けると、血流が戻っても「脂肪を燃やす能力」だけはずっと落ちたままになります(気絶心筋)。 「血流(Tl)は正常なのに、代謝(BMIPP)だけ欠損している」。 これが見えたら、「あ、最近ここで発作が起きたんだな!」と診断できるのです。これを「虚血メモリー」と呼びます。

今日のまとめ

  1. 【血流(虚血・狭心症)】
    • 201Tl(能動輸送・再分布あり)
    • 99mTc-MIBI / テトロホスミン(受動拡散・ミトコンドリア集積・画質が良い)
  2. 【脂肪酸代謝(虚血メモリー)】
    • 123I-BMIPP(血流正常でも代謝低下=乖離を見る)
  3. 【交感神経(心不全・レビー)】
    • 123I-MIBG(ノルアドレナリン類似・H/M比)
  4. 【心筋梗塞(壊死)】
    • 99mTc-PYPホットスポット=死んだ所に集まる唯一の例外!)

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