放射線治療で誤っているのはどれか。
- セットアップマージンは PTV に含まれる。
- ITV は CTV に内的マージンを加えたものである。
- 計算アルゴリズムである convolution 法では非電子平衡を考慮している。
- ホウ素中性子捕捉療法で発生する ⁷Li や ⁴He の体内飛程は 2〜3 mm である。
- くさびフィルタのウェッジ角度は水ファントム中の10 cm 深における等線量曲線と中心軸を横切る角度の余角である。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
4.ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)で発生する ⁷Li や ⁴He の体内飛程は2〜3 mmである。
解説
✔ 標的体積(マージン設定)の基本
放射線治療では、がん病変を確実にカバーするために、以下のように段階的にマージンを設定します。
- CTV (Clinical Target Volume) :肉眼的腫瘍体積(GTV)に、周囲の顕微鏡的な病巣の広がりを含めた領域。
- ITV (Internal Target Volume) :CTVに対し、呼吸や消化管運動などによる臓器の動き(内的マージン)を考慮して加えた領域。
- PTV (Planning Target Volume) :ITV(またはCTV)に対し、毎回の治療における患者の位置合わせの誤差(セットアップマージン)を考慮して加えた領域。このPTVに処方線量が照射されるように計画します。
✔ BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは?
BNCTは、がん細胞に選択的に取り込ませた¹⁰B(ホウ素-10)に中性子を照射し、⁷Li(リチウム)と⁴He(α粒子)を生じさせて、がん細胞内部から破壊する治療法です。このとき生成される⁷Liや⁴Heの飛程は、
- 約10μm(= 0.01 mm)程度
- がん細胞1〜2個分程度の距離
✔ 線量計算アルゴリズム:Convolution(コンボリューション)法
- 放射線が物質内で散乱する影響をより精密に計算するアルゴリズム。
- 皮膚と空気の境界や、肺のように密度の低い組織など、電子平衡が成り立たない領域(非電子平衡領域)でも、比較的正確な線量計算が可能。
✔ ウェッジフィルタの定義
- ウェッジフィルタは、傾斜のある補償フィルタであり、照射線量を不均一な形状の組織に均等化するために用います。
- ウェッジ角度は、一般的に水ファントム内のある深さ(10cm)における、中心軸を通る等線量曲線の傾きの角度として定義されます。
✔ 各選択肢について
1. セットアップマージンは PTV に含まれる。
- ✅ 正しい
- PTV(計画標的体積)はCTV(臨床標的体積)にセットアップマージンを加えた体積。
2.ITV は CTV に内的マージンを加えたものである。
- ✅ 正しい
- 内的マージン(呼吸や臓器移動などの内部変動)をCTVに加えた体積がITV。
3.計算アルゴリズムである convolution 法では非電子平衡を考慮している。
- ✅ 正しい
- Convolution法や、さらに高精度なMonte Carlo法は、非電子平衡領域での線量計算精度が高いアルゴリズム。
4.ホウ素中性子捕捉療法で発生する ⁷Li や ⁴He の体内飛程は 2〜3 mm である。
- ❌ 誤り
- ⁷Li や ⁴He(α線)の飛程は極めて短く、10 μm 程度(細胞1〜2個分)。
5.くさびフィルタのウェッジ角度は水ファントム中の10 cm 深における等線量曲線と中心軸を横切る角度の余角である。
- ✅ 正しい
- ウェッジ角は、は等線量曲線の傾きに基づいています。
出題者の“声”

この問題では、放射線治療計画の根幹をなす概念を、正確に理解しておるかを確認したかったのじゃ。 PTV、ITV、マージン…言葉は知っていても、それぞれの関係性や目的を明確に説明できる者は意外と少ない。これらは治療の精度と安全性を担保する上で絶対に欠かせない知識じゃぞ。
そして、今回の最大の“ひっかけ”はBNCTの飛程じゃな。「2〜3 mm」という数字は、一見すると「短い距離」に思えるかもしれん。しかし、BNCTの舞台は細胞レベルじゃ。その世界では、10µm(= 0.01mm)という距離こそが「超短距離」であり、この短さこそが治療の鍵なのじゃ。
この「µm」という単位が持つ物理的なスケール感を、しっかりイメージできるかどうかが問われておる。
国家試験では、こうした“数値の桁(スケール)”や“単位”の感覚を問う問題がよく出される。数字をただ暗記するのではなく、「その数字が何を意味するのか」という本質まで理解しておくことが肝心じゃ。
臨床の“目”で読む

放射線治療におけるマージン設定や線量計算、そして粒子線の特性に関する知識は、すべて「いかにして、がん病巣に正確に線量を集中させ、周囲の正常組織を守るか」という一点に集約されます。
PTVやITVという概念は、「がんを叩く」という治療の根幹を支える設計図そのものです。この設計図が数mmズレるだけで、治療効果の低下や有害事象の増加に直結します。
一方で、BNCTのような最先端治療の原理を理解することも重要です。BNCTの強みは、α粒子とリチウム核の飛程が細胞1〜2個分と極めて短いことにあります。もし飛程が2〜3mmもあったら、薬剤が集積した細胞の周囲にある正常な細胞まで広範囲に破壊してしまい、この治療法の選択性という最大のメリットが失われます。
放射線技師として、これらの知識は治療装置を操作するための単なる背景情報ではありません。「なぜこのマージンが必要なのか」「なぜこの計算アルゴリズムが選択されたのか」「この治療法の本質的なメリットは何か」を深く理解し、多職種チームと共有すること。その姿勢こそが、質の高い治療を支え、患者さんからの信頼を得る礎となります。
キーワード
- 放射線治療計画
- PTV / ITV / CTV
- 内的マージン / セットアップマージン
- 線量計算アルゴリズム / 非電子平衡
- BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)
- 飛程
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