スイスチーズモデルの考え方で正しいのはどれか。
- 個人の過ちや職場の環境と体制に潜む危険が安全対策の穴を作る。
- 個人の集中力や責任感を高めなければ事故を減らすことはできない。
- 事故の原因追求を徹底すれば単一の根本的な過誤や失策に行き着く。
- 不完全な安全対策を複数用意するより完全な安全対策を一つ用意する。
- 抜け穴のある安全対策を複数に増やしても事故を減らすことはできない。
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
1. 個人の過ちや職場の環境と体制に潜む危険が安全対策の穴を作る。
解説
✔ スイスチーズモデルとは?
心理学者のジェームズ・リーズンが提唱した、事故発生のメカニズムを説明するモデルです。
- モデルの概要 組織における安全対策を、穴の開いたスイスチーズのスライスに例えます。
- 各スライス:一つ一つの安全対策(例:マニュアル、ダブルチェック、アラーム機能など)を表します。
- チーズの穴:各対策に存在する欠陥や弱点(例:ヒューマンエラー、システムの不備、忙しさによる手順の省略など)を表します。
- 事故の発生:通常、一つの穴は他のスライスによって防がれます。しかし、稀に複数のスライスの穴が一直線に並んだとき、危険がその穴を通り抜け、事故に至ると考えます。
このモデルの特徴は、個人のエラー(積極的失敗)だけでなく、組織の管理体制や職場環境に潜む問題(潜在的欠陥)にも着目し、システム全体で安全を考える点にあります。

✔ 各選択肢について
1. 個人の過ちや職場の環境と体制に潜む危険が安全対策の穴を作る。
- ✅ 正解
- スイスチーズモデルでは、個人のエラーだけでなく、組織のルール、コミュニケーション、設備などの潜在的な問題も、事故につながる「穴」として捉えます。
2.個人の集中力や責任感を高めなければ事故を減らすことはできない。
- ❌ 誤り
- スイスチーズモデルは、「人は誰でも間違える」ことを前提としています。
- 個人の資質に頼るのではなく、個人が間違えても事故に至らないシステムを構築することを目指します。
3.事故の原因追求を徹底すれば単一の根本的な過誤や失策に行き着く。
- ❌ 誤り
- このモデルは、事故は単一の原因ではなく、複数の要因(穴)が連鎖して発生するという「多要因連鎖モデル」です。
- 単一原因論とは対極の考え方です。
4.不完全な安全対策を複数用意するより完全な安全対策を一つ用意する。
- ❌ 誤り
- 「完璧な安全対策は存在しない」というのが、このモデルの出発点です。
- だからこそ、不完全であっても複数の防御策を層状に重ねることが有効だと考えます。
5.抜け穴のある安全対策を複数に増やしても事故を減らすことはできない。
- ❌ 誤り
- 防御策(チーズのスライス)を一枚増やすごとに、穴が一直線に並ぶ確率は劇的に低くなります。
- したがって、対策を重ねることは事故防止に非常に有効です。
出題者の“声”

この問題の狙いは、医療安全の基本理念であるスイスチーズモデルが、「個人を責める」のではなく「システムを見直す」という考え方であることを、正しく理解できているかを確認することじゃ。
「注意しなさい」と言うだけでは、事故はなくならん。
「人はミスをするもの」という前提に立ち、じゃあどうすればミスが事故につながらないか、その「仕組み(システム)」を考えるのが、このモデルの神髄じゃ。
「一つの完璧な壁」を目指すのではなく、「たくさんの穴あきの壁でも、何枚も重ねれば貫通しにくくなる」という発想の転換が重要なんじゃな。
この考え方は、医療安全だけでなく、あらゆるリスクマネジメントの基本じゃ。人を責める文化から、仕組みで守る文化へ。その思想を理解することが、安全な医療への第一歩じゃぞ!
臨床の“目”で読む

医療現場は、スイスチーズモデルで説明できる「多層防御」の実践の場です。私たちは無意識のうちに、日々たくさんのチーズのスライスを重ねて業務を行っています。
例えば、「患者誤認の防止」を考えてみましょう。
- スライス1:声かけ → 技師が患者さんの名前をフルネームで確認する。
- (穴:同姓同名、患者さんの聞き間違い)
- スライス2:リストバンド → 技師がリストバンドの名前を目視で確認する。
- (穴:技師の見間違い、そもそもリストバンドの付け間違い)
- スライス3:バーコード認証 → システムがリストバンドのバーコードを読み取り、検査オーダと照合する。
- (穴:バーコードが汚れて読めない、システムの不具合)
このように、一つの対策だけでは防げないエラーも、複数の対策を重ねることで、事故に至る確率を限りなくゼロに近づけることができます。
「人がミスをすること」を前提に、こうした「ミスを途中で食い止めるための仕組み」を考え、実践し、改善し続けることが医療安全活動の核心です。
放射線技師としても、「自分の業務プロセスの中に“チーズの穴”はないか?」と常に問いかけ、チームで改善策を提案していく姿勢が、患者さんを守るだけでなく、自分たち自身を守ることにもつながるのです。
キーワード
- スイスチーズモデル
- ヒューマンエラー
- 医療安全管理
- リスクマネジメント
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