第77回 午前 39

放射線安全管理学

診療放射線技師が検査中に認めた異常所見で直ちに医師に報告することが適切でないのはどれか。

  1. 脳の腫瘤
  2. 頭蓋内出血
  3. 腹腔内遊離ガス
  4. 肋間腔開大を伴う気胸
  5. 3 cmの蛇行した上行大動脈

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


5.径 3 cm の蛇行した上行大動脈


解説

✔ STAT画像とは?

「STAT画像」とは「生命予後に関わる緊急性の高い疾患の所見」を指し、技師がこれらを認識した際は、迅速に医師へ報告し、患者が早期治療の機会を逃さないようにする体制構築が求められています。

出典:放射線科医から 診療放射線技師へのタスク・シフト/シェアのためのガイドライン集


✔ 各選択肢について

1. 脳の腫瘤

  • 正しい
  • 腫瘍そのものは慢性の経過でも、それによる急性の症状(意識障害、麻痺など)や、頭蓋内圧亢進を引き起こしている可能性があります。
  • 上記の通り、クリティカルな所見として扱われるため、報告が推奨されます。

2.頭蓋内出血

  • 正しい
  • くも膜下出血や急性硬膜外/下血腫などは、分単位で生命に関わる超緊急事態です。
  • ただちに脳神経外科的な処置が必要になる可能性があります。

3.腹腔内遊離ガス

  • 正しい
  • 消化管穿孔(胃や腸に穴が開いた状態)を強く示唆します。
  • 腹膜炎から敗血症性ショックに至る危険があり、緊急手術の適応となる可能性が高い所見です。

4.肋間腔開大を伴う気胸

  • しい
  • 「肋間腔の開大」は、肺から漏れた空気が胸腔内の圧力を異常に高めている「緊張性気胸」のサインです。
  • 心臓や大血管を圧迫し、血圧低下やショックを引き起こすため、一刻も早い胸腔ドレナージ(脱気)が必要です。

5.径 3 cmの蛇行した上行大動脈

  • 誤り
  • 成人の上行大動脈の正常径は約3cm前後であり、逸脱していません。
  • また、動脈の蛇行は加齢や高血圧に伴う一般的な変化です。

出題者の“声”

この問題では、診療放射線技師が目にする数々の異常所見の中から、「本当にヤバいもの(=クリティカルファインディング)」を嗅ぎ分ける臨床的な嗅覚があるかを試しておるのじゃ。

頭蓋内出血、フリーエアー、緊張性気胸。これらは見つけた瞬間に、医師に知らせるべき超緊急事態じゃ。対応が数分遅れるだけで、患者の予後が大きく変わってしまう。

一方で、「径3cmの蛇行大動脈」のような、正常範囲内の所見や加齢性変化まで逐一緊急報告していては、オオカミ少年になってしまう。本当に重要な報告が埋もれてしまい、かえって医療安全を損なう危険すらあるんじゃ。

「すべての異常が、すべての緊急事態ではない」。この重要な線引きができるかどうかが、プロの技師としての価値を決めると言っても過言ではないぞ。


臨床の“目”で読む

放射線技師は、画像が生成された瞬間に、その患者の体内で起きている異変の「最初の目撃者」となることが多々あります。その時、「これはただちに報告すべきか、後でよいか」を判断する能力は、チーム医療における技師の重要な役割です。

STAT画像は、まさに生命の危機に直結します。 一方で、「3cmの大動脈」は正常範囲です。もしこれが「径6cmの大動脈瘤」や、「解離フラップが見える」といった所見であれば、話は全く別で、緊急報告の対象となります。

救急の現場では、撮影直後に研修医や担当医から「何か緊急所見はありますか?」と意見を求められることは技師あるあるです。その際に、自信を持って「特に緊急性のある所見は認められません」あるいは「〇〇の可能性があり、至急確認が必要です」と的確に伝えられること。

それこそが、撮影技術だけではない、診療放射線技師の専門性であり、患者の命を救う一助となるのです。


キーワード

  • STAT画像

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