第77回 午前 50

基礎医学大要

ヒトの感染防御機構で獲得免疫に関与するのはどれか。2つ選べ

  1. 胸腺
  2. 口腔
  3. 骨髄
  4. 皮膚
  5. 消化管

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.胸腺
3.骨髄


解説

✔ 自然免疫と獲得免疫とは

自然免疫(先天免疫)

  • 役割:生まれつき備わっている、非特異的な防御機構。病原体の種類を問わず、侵入を物理的・化学的に防ぐ「第一の防壁」
  • 主な構成要素皮膚粘膜口腔、消化管など)、好中球、マクロファージなど。

獲得免疫(後天免疫)

  • 役割:侵入してきた病原体(抗原)を特異的に認識し、記憶することで、より強力に対応する「学習型」の高度な防御機構。
  • 主な主役T細胞B細胞というリンパ球。
  • 中心となる器官(一次リンパ器官):これらのリンパ球が作られ、成熟する場所
    • 骨髄:すべての血球の元となる造血幹細胞が存在し、B細胞が分化・成熟する場所。
    • 胸腺:骨髄で作られたT細胞の前駆細胞が移動し、T細胞として教育・成熟する場所。

✔ 各選択肢について

1. 胸腺

  • 正解
  • T細胞が成熟するための、獲得免疫に不可欠な一次リンパ器官。

2.口腔

  • 誤り
  • 唾液による殺菌や粘膜バリアなど、自然免疫の最前線。

3.骨髄

  • 正解
  • B細胞が分化・成熟し、すべての免疫細胞の源となる造血幹細胞が存在する、獲得免疫の「故郷」ともいえる一次リンパ器官。

4.皮膚

  • 誤り
  • 病原体の侵入を物理的に防ぐ、最も外側のバリアであり、自然免疫の主役。

5.消化管

  • 誤り
  • 胃酸や腸内細菌叢、粘膜免疫(MALTなど)によって病原体の侵入を防ぐ、自然免疫の重要な砦。

出題者の“声”

この問題の狙いは、免疫システムを「自然免疫」「獲得免疫」という2つの大きな枠組みで捉え、それぞれの役割を担う器官を正しく分類できるかを確認することにある。

獲得免疫の主役は、T細胞B細胞じゃ。では、その主役たちは「どこで生まれ、どこで育つのか?」。その「免疫細胞の製造工場と学校」とも言える場所が、まさに骨髄胸腺なんじゃ。

一方で、皮膚や口腔、消化管は、病原体の侵入を最前線で食い止める「城壁」や「堀」のようなもの。これも免疫の一部ではあるが、学習能力を持つ獲得免疫とは役割が違う。

この問題は、「免疫に関わる器官」というだけで安易に選ぶのではなく、「その器官の“仕事内容”は何か?」まで深く理解しているかを試す、知識の正確性を問う一問じゃ。


臨床の“目”で読む

獲得免疫の中枢である「骨髄」と「胸腺」は、私たち放射線技師の臨床業務、特に画像診断放射線治療と密接に関わっています。

骨髄はすべての免疫細胞の起源であり、B細胞の産生・成熟の場でもあります。放射線治療(とくに全身照射)や多くの抗がん剤は、骨髄の造血機能を抑制し、白血球減少(骨髄抑制)を引き起こします。これにより免疫力が低下し、感染リスクが著しく上昇します。骨髄の機能や影響を理解しておくことは、治療後の副作用や感染予防策を考えるうえで不可欠です。

胸腺は、T細胞を成熟させる“教育機関”です。胸骨の裏側(前縦隔)に位置し、思春期に最も発達し、その後は加齢とともに脂肪組織に置き換わっていきます。胸部CTやMRIで年齢相応の大きさかどうか、また腫瘍性病変(例:胸腺腫)の有無を評価することは、日常的な読影の中でも重要なポイントです。

また、胸腺は自己免疫疾患の重症筋無力症との関連が深く、画像と免疫疾患の橋渡し的理解としても知っておきたい構造です。

感染対策という点でも、骨髄抑制などで免疫機能が低下した患者に対しては、技師側が感染源にならないよう、より厳格な衛生管理が求められます。免疫力が落ちた状態では、健康な人では問題にならない微生物でも、命に関わる重篤な感染症を引き起こす可能性があるためです。

放射線技師にとって、免疫という目に見えない機能を、画像・治療・管理にどう反映させるかという視点が重要となります。


キーワード

  • 獲得免疫
  • 自然免疫
  • 一次リンパ器官
  • 骨髄
  • 胸腺
  • 感染対策

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