第77回 午前 52

基礎医学大要

上眼窩裂を通らないのはどれか。

  1. 眼神経
  2. 視神経
  3. 外転神経
  4. 滑車神経
  5. 動眼神経

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


2.視神経


解説

✔ 上眼窩裂(じょうがんかれつ)とは?

上眼窩裂は、蝶形骨の大翼と小翼の間にある裂け目で、眼窩(がんか)と頭蓋腔をつなぐトンネルです。
この隙間を通じて、眼球運動や感覚に関わる重要な神経や血管が通ります。

通過する主な構造:

  • 眼神経(三叉神経第Ⅰ枝:V₁)
  • 動眼神経(III)
  • 滑車神経(IV)
  • 外転神経(VI)
  • 上眼静脈

✔ 各選択肢について

1. 眼神経

  • 正しい
  • 三叉神経の第Ⅰ枝(V₁)であり、上眼窩裂を通って額や鼻、角膜などの感覚を支配します。

2.視神経

  • 誤り(正解)
  • 視神経は、専用のトンネルである「視神経管」眼動脈と一緒に通ります。
  • 網膜からの視覚情報を脳へ伝えるための、いわばVIP専用ルートです。

3.外転神経

  • 正しい
  • 外転神経(VI)は、眼球を外側に向ける外側直筋を支配します。

4.滑車神経

  • 正しい
  • 滑車神経(IV)は、眼球を内下に向ける上斜筋を支配します。

5.動眼神経

  • 正しい
  • 動眼神経(III)は、多くの眼筋(上・内・下直筋、下斜筋など)を支配する、いわば眼球運動の“親玉”です。

出題者の“声”

この問題は、「頭蓋と眼球をつなぐトンネル構造を正しく理解しているか」を確認するために出題したのじゃ。

視神経という言葉の響きから、「眼に関係する神経だから上眼窩裂を通るはず」と考えてしまうのはよくある誤解であり、これが最大の狙い目じゃ。

しかし、実際には視神経は専用の視神経管というトンネルを通るのじゃよ。

この問題では、解剖用語をそのまま暗記しているだけでは対応できぬ
「何が、どこを通って、どこに至るのか」という空間的なイメージと、頭蓋の構造を地図のように把握できているかが問うておるぞ!


臨床の“目”で読む

CTやMRIで眼窩や頭蓋底を評価する際、神経の通り道を正確に知っているかで読影の質が全く変わります。

  • 例えば、上眼窩裂を通る神経群(動眼・滑車・外転・眼神経)が腫瘍などで一斉に障害されると、「上眼窩裂症候群」として、眼球運動の麻痺や顔面の感覚障害が起こります。
  • 一方で、視神経管に骨折や腫瘍が及べば、眼球運動は正常でも視力低下や失明といった症状が強く出ます。

このように、症状から障害部位を予測したり、画像所見から「この患者さんには複視(モノが二重に見える)が出ているはずだ」と臨床症状を推測したりできる。構造の知識が、そのまま臨床推論の力になるのです。


今日のまとめ

  1. 上眼窩裂を通るのは眼神経(V₁)、動眼神経(III)、滑車神経(IV)、外転神経(VI)など。
  2. 視神経(II)は視神経管を通るため、上眼窩裂は通過しない。
  3. この構造の違いが、眼球運動障害視力障害の原因を鑑別するカギになる。

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