個人被ばく線量計に用いられる検出材料で光子に対するエネルギー依存性が最も小さいのはどれか。
- Si
- LiF
- Al₂O₃
- CaSO₄
- リン酸塩ガラス
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
2.LiF
解説
✔ エネルギー依存性とは?:「人体らしさ」の指標
個人被ばく線量計の理想は、「どんなエネルギーの放射線に対しても、人体組織と全く同じように反応する」ことです。しかし、検出器の材質と人体組織の材質は異なるため、放射線のエネルギーによって反応の仕方に「ズレ」が生じます。この、エネルギーによる応答(感度)のバラつきを「エネルギー依存性」と呼びます。 エネルギー依存性が小さいほど、人体組織の吸収線量をより正確に評価できる、優れた線量計と言えます。
✔ なぜ「実効原子番号」が重要なのか?
このエネルギー依存性の大小を決定づける最大の要因が、「実効原子番号(Zeff)」です。
- 診断領域で使われるような比較的低いエネルギーの光子は、光電効果によって物質に吸収されやすいです。
- そして、光電効果が起こる確率は、物質の原子番号のほぼ3乗に比例します。
つまり、実効原子番号が人体(軟部組織のZeff ≈ 7.4)と大きく異なる物質は、低エネルギーの放射線に対して過剰に反応(または過小に反応)してしまい、エネルギー依存性が大きくなるのです。
結論:Zeffが人体組織(≈7.4)に近いほど、エネルギー依存性は小さくなります。
✔ 各検出材料の比較

この表から、LiF (フッ化リチウム) の実効原子番号が最も人体組織に近く、エネルギー依存性が最も小さいことが一目瞭然です。
出題者の“声”

この問題は、個人被ばく線量計の最も重要な性能の一つである「エネルギー依存性」について、その物理的な意味を理解しておるかを確認しておる。
「どの線量計が一番優れているか?」という問いじゃが、これは「どの物質が、最も人間らしく振る舞うか?」という問いと同じことじゃ。
その答えの鍵を握るのが「実効原子番号」。この値が人体の軟部組織(Zeff ≈ 7.4)に近いほど、「人間らしい」優れた線量計と言えるのじゃ。
CaSO₄などは感度が高いことで有名じゃが、それは低エネルギーで過剰に反応するからでもある。感度の高さとエネルギー依存性の低さは、必ずしもイコールではない。この違いを分かっておるかが、勝負の分かれ目じゃ。
臨床の“目”で読む

我々放射線技師が日々身に着けている個人線量計(バッジ)にとって、エネルギー依存性の低さはなぜこれほど重要なのでしょうか。
ー様々なエネルギー環境で働くからー
放射線技師は、マンモグラフィのような低エネルギーのX線から、CTやIVRで使われる高エネルギーのX線まで、多種多様なエネルギーの放射線環境で作業します。
もしエネルギー依存性が大きい線量計を使っていると、「どの装置で作業したかによって、被ばく線量の評価が不正確になる」という事態に陥りかねません。
例えば、低エネルギーで感度が過剰な線量計を使っていると、透視業務が多かった月に、実際よりも遥かに高い被ばく線量値が報告されてしまう可能性があります。
ーエネルギー補償フィルタの工夫ー
LiF(熱ルミネッセンス線量計, TLD)は、その組織等価性から理想的な素子の一つです。
一方、Al₂O₃(光刺激ルミネッセンス線量計, OSL)のように、素子自体のエネルギー依存性がやや大きいものでも、エネルギー補償フィルタという金属の板を素子の前面に装着する工夫がされています。
このフィルタが低エネルギーのX線を意図的にカットすることで、検出器に到達するX線のエネルギー分布を調整し、結果として全体のエネルギー依存性を小さくしているのです。
これもまた、物理原理を応用した素晴らしい技術です。
今日のまとめ
- 個人線量計のエネルギー依存性は、その材料の実効原子番号 (Zeff) が人体組織 (Zeff ≈ 7.4) にどれだけ近いかで決まる。
- LiF (フッ化リチウム) はZeffが8.2と組織に非常に近く、今回の中ではエネルギー依存性が最も小さい。
- エネルギー依存性の主な原因は、低エネルギー域で顕著な光電効果が、原子番号の3乗に比例するためである。
- エネルギー依存性が大きい素子でも、エネルギー補償フィルタを用いることで、実用上問題のないレベルまで性能を改善している。
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