第77回 午前 75

理工学・放射線科学

X線管装置で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 線質は陽極側に比べ陰極側で軟線が多い。
  2. 短時間許容負荷は焦点寸法に依存しない。
  3. 陰極エミッション特性は管電流の特性を表す。
  4. ヒートユニットは許容負荷を表す単位である。
  5. 漏れ放射線は放射口を透過する電離放射線である。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


1.線質は陽極側に比べ陰極側で軟線が多い。
3.陰極エミッション特性は管電流の特性を表す。


解説

✔ X線管の基本特性を理解する

この問題は、X線管の性能や特性を決める複数の重要な概念(ヒール効果、許容負荷、エミッション特性など)を、横断的に正しく理解しているかを確認する問題です。


✔ 各選択肢について

1. 線質は陽極側に比べ陰極側で軟線が多い。

  • 正解
  • これはヒール効果によるものです。
  • X線は陽極(ターゲット)内で発生した後、陽極自身を通過して出てきます。陽極側に向かうX線は、斜めに長い距離を陽極内で通過するため、エネルギーの低い軟線成分が多く吸収されます(自己吸収)。その結果、陰極側に比べて硬い線質になります。逆に、陰極側は自己吸収が少ないため、軟線成分が多く残ります

2.短時間許容負荷は焦点寸法に依存しない。

  • 誤り
  • 短時間許容負荷は、焦点寸法に大きく依存します
  • 焦点が大きいほど、電子ビームが衝突する面積が広がり、熱が分散しやすくなります。そのため、焦点が大きい方が、短時間でより大きな負荷(大電流)に耐えることができます

3.陰極エミッション特性は管電流の特性を表す。

  • 正解
  • 陰極エミッション特性とは、「フィラメントをどれだけ加熱すれば(フィラメント電流)、どれくらいの電子が飛び出し、管電流になるか」という関係を示したものです。つまり、管電流の発生特性そのものを表しています。

4.ヒートユニットは許容負荷を表す単位である。

  • 誤り
  • ヒートユニット(HU)は、X線管に与えられる「熱量」そのものを表す単位です(HU = kV × mA × s)。
  • 「許容負荷」とは、そのX線管が耐えられる熱量の上限値のことであり、HUはそれを測定・評価するための単位ではありますが、許容負荷そのものの単位ではありません。

5.漏れ放射線は放射口を透過する電離放射線である。

  • 誤り
  • 漏れ放射線とは、X線管球を覆っている防護カバー(管球ハウジング)の遮蔽が不十分なために、意図しない方向へ漏れ出てしまう放射線のことです。撮影のために開けられた「放射口」から出てくる有用なX線(利用線)とは区別されます。

出題者の“声”

この問題は、X線管という「道具」のクセと限界を、どれだけ深く理解しておるかを試しておる。ただX線が出るだけの箱ではないからのう。

最大のポイントは、やはり「ヒール効果」じゃな。

「陽極側が硬くなる」という事実だけでなく、「なぜなら、陽極自身がフィルタの役割をするからじゃ」という理由まで説明できて一人前じゃ。

そして、「許容負荷」と「ヒートユニット」の関係も、言葉の定義を正確に捉えておるかが試される。HUはあくまで熱量の「単位」であり、許容負荷という「概念」そのものではない。この微妙な違いが、勝負を分けるのじゃ。

それぞれの現象を、物理的なイメージと結びつけて覚えておくことが肝心じゃ。


臨床の“目”で読む

これらのX線管の特性は、日々の撮影業務における画質調整や装置の管理に直結しています。

① ヒール効果の臨床応用

ヒール効果は、単なる物理現象ではなく、画質を均一にするためのテクニックとして応用されます。

例えば、胸部撮影や乳房撮影(マンモグラフィ)のように、被写体の厚さが一様でない場合、厚い部分(腹部側や胸壁側)を陰極側に、薄い部分(肺尖部側や乳頭側)を陽極側に合わせて撮影します。

これにより、軟線が多く透過力の弱い陰極側のX線が厚い部分に、硬線が多く透過力の強い陽極側のX線が薄い部分に当たるため、写真濃度が均一になり、質の高い画像が得られるのです。

② 許容負荷と装置の寿命

「短時間許容負荷」は、特に大電流を必要とするCTや血管撮影(DSA)で常に意識すべきパラメータです。許容負荷を超えた使用を繰り返すと、陽極ターゲットが損傷し、X線管の寿命を著しく縮める原因となります。

撮影プロトコルを組む際には、必要な画質を担保しつつ、装置に過度な負担をかけないよう、この許容負荷を考慮することが重要となります。


今日のまとめ

  1. ヒール効果により、X線管の陰極側は軟線が多く陽極側は硬線が多くなる。これは撮影時の濃度ムラ補正に応用される。
  2. 短時間許容負荷焦点寸法に依存し、焦点が大きいほど負荷に強くなる。
  3. 陰極エミッション特性は、フィラメントの加熱と管電流の関係を示す。
  4. ヒートユニット(HU)は熱量の単位であり、これを用いて許容負荷を評価する。
  5. 漏れ放射線は、放射口以外から漏れ出る不要な放射線である。

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