第77回 午前 76

理工学・放射線科学

X線高電圧装置で正しいのはどれか。

  1. 管電流はX線管の陽極に流れる電流の最大値で表す。
  2. コンデンサ式X線装置の管電流時間積は線量に比例する。
  3. 管電圧はX線管の陽極と陰極との間の電位差の平均値で表す。
  4. 2ピーク形X線装置の管電圧調整は単巻変圧器の出力側で行う。
  5. 共振形インバータ式X線装置の管電圧リプル百分率はインバータ周波数に比例する。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.2ピーク形X線装置の管電圧調整は単巻変圧器の出力側で行う。


解説

✔ X線高電圧装置の役割とは?

X線高電圧装置は、壁のコンセントから供給される低い電圧(100Vや200V)を、X線を発生させるために必要な非常に高い電圧(数万~十数万V)に変換し、安定して供給するための装置です。この装置の性能が、X線の質と量を決定づけます。


✔ 各選択肢について

1. 管電流はX線管の陽極に流れる電流の最大値で表す。

  • 誤り
  • 管電流は、X線管のフィラメントから陽極へ流れる電子の流れのことで、その大きさは平均値または実効値 [mA] で表されます。常に変動している波形の最大値(ピーク値)ではありません。

2.コンデンサ式X線装置の管電流時間積は線量に比例する。

  • 誤り
  • コンデンサ式装置では、撮影開始時にコンデンサに溜めた電荷を放出するため、管電圧が時間とともに低下していきます。
  • 管電圧が下がるとX線の発生効率も悪くなるため、単純に管電流時間積(mAs値)と出力されるX線量(線量)は比例しません。

3.管電圧はX線管の陽極と陰極との間の電位差の平均値で表す。

  • 誤り
  • 管電圧は、X線管にかかる電圧の最大値(波高値)で表し、単位は [kVp] (kilo-volt peak) が用いられます。平均値ではありません。

4.2ピーク形X線装置の管電圧調整は単巻変圧器の出力側で行う。

  • 正解
  • 2ピーク形(単相全波整流)装置では、最終的な管電圧は、主回路にある高圧変圧器で一気に昇圧されます。
  • この高圧変圧器に入力する電圧を調整することで、出力される管電圧をコントロールします。その入力電圧の微調整を行うのが単巻変圧器(オートトランス)の役割です。

5.共振形インバータ式X線装置の管電圧リプル百分率はインバータ周波数に比例する。

  • 誤り
  • 管電圧リプル(脈動)とは、電圧の波の「なめらかさ」を示す指標です。
  • インバータ式装置では、周波数を高くすればするほど、波が細かくなり、より平坦でなめらかな直流に近い電圧になります。したがって、リプル百分率はインバータ周波数に反比例します。

出題者の“声”

この問題は、X線高電圧装置という「ブラックボックス」の中身を、どれだけ理解しておるかを試しておる。ただボタンを押すだけでなく、その裏で何が起こっているかを想像できるかが、勝負の分かれ目じゃ。

  • 「管電圧」「管電流」と聞いたときに、それが「最大値」なのか「平均値」なのか、正確に区別できるか?
  • 「コンデンサ式」と聞いたら、「電圧がだんだん下がっていく」という、あの特徴的な動きを思い出せるか?
  • 「インバータ式」と聞いたら、「周波数を上げて、電圧をなめらかにする」という、あの賢い仕組みを説明できるか?

そして正解の選択肢は、古典的ながらも基本となる2ピーク形装置の構造を問うておる。「単巻変圧器で調整し、高圧変圧器で昇圧する」この二段階のプロセスが、頭の中に描けておれば、迷うことはなかったはずじゃ。


臨床の“目”で読む

X線高電圧装置の方式の違いは、装置の性能やサイズ、そして臨床での使い勝手に直結しています。

装置の小型化・高性能化を支える「インバータ式」

かつての単相(2ピーク形)や三相の装置は、大きな変圧器が必要で、装置全体が非常に大型でした。

しかし、現在主流のインバータ式装置は、高い周波数を利用することで、変圧器を劇的に小型化することに成功しました。これにより、

  • ポータブル撮影装置外科用イメージ装置(Cアーム)といった、移動型の装置が実現できた。
  • 管電圧の立ち上がりが速く、リプルも極めて少ないため、短時間で安定した質の高いX線を発生させることができる。

といった大きなメリットが生まれました。私たちが病室や手術室で当たり前にX線撮影ができるのは、このインバータ技術の恩恵なのです。

コンデンサ式装置の役割

コンデンサ式装置は、電圧が不安定という欠点はあるものの、電源設備が不十分な場所でも、一時的に電気を溜めて大きなパワーを出すことができます。そのため、検診車や災害現場で使われるX線装置など、特殊な環境で今も活躍しています。

このように、それぞれの高電圧装置の特性を理解することは、各装置の能力の限界を知り、その性能を最大限に引き出す上で非常に重要です。


今日のまとめ

  1. X線高電圧装置の管電圧は最大値 (kVp)、管電流は平均値 (mA)で表すのが基本。
  2. 単巻変圧器は、高圧変圧器に入る前の電圧を調整する役割を持つ。
  3. コンデンサ式は電圧が時間と共に低下するため、mAs値と線量は比例しない。
  4. インバータ式は、周波数を上げるほど電圧リプルは小さくなり、装置の小型化・高性能化に貢献している。

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