第77回 午前 90

第77回

頚椎のX線写真を示す。矢印で示すのはどれか。

  1. 棘突起
  2. 椎間腔
  3. 椎間孔
  4. 椎弓根
  5. Luschka(ルシュカ)関節

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


4.椎弓根


解説

✔ このX線写真(頚椎斜位像)の目的とは?

このX線写真は、頚椎を斜め方向から撮影した「頚椎斜位像」です。
正面像や側面像では骨が重なって見えにくい、椎間孔の状態を観察するために撮影されます。

椎間孔は、脊髄から腕へ向かう神経(神経根)が通り抜けるための「トンネル」であり、このトンネルが狭くなっていないかなどを評価します。

✔ 椎弓根とはどの部分か?

椎骨は、前方の円柱状の椎体と、後方のアーチ状の椎弓からなります。 椎弓根は、この椎体と椎弓をつなぐ、短い柱状の骨の部分です。

斜位像で頚椎を見ると、この椎弓根がちょうど楕円形の「眼」のように見えます。矢印は、まさにこの部分を指しています。


✔ 各選択肢について

1. 棘突起

  • 誤り
  • 棘突起は、椎弓の後方中央から突き出ている突起で、首の後ろから触れることができる骨です。

2.椎間腔

  • 誤り
  • 椎間腔は、椎体と椎体の間にあるスペースで、椎間板が存在する場所です。

3.椎間孔

  • 誤り
  • 椎間孔は、上下の椎骨が連結することによってできる「穴(孔)」そのものを指します。

4.椎弓根

  • 正解
  • 椎体と椎弓をつなぐ部分で、斜位像では特徴的な楕円形に見えます。

5.Luschka(ルシュカ)関節

  • 誤り
  • ルシュカ関節(鉤椎関節)は、椎体の左右後方にある小さな関節面です。

出題者の“声”

この問題は、解剖学の三次元的な知識を、二次元のX線写真上で再構築できるかを試しておる。

「頚椎斜位像」と聞けば、多くの者は反射で「椎間孔!」と答えたくなる。なぜなら、それがこの撮影の最大の目的じゃからな。

しかし、ワシのワナはそこにある。

矢印が指しておるのは、「穴(椎間孔)」ではなく、「骨(椎弓根)」なのじゃ。

キーワードに飛びつかず、矢印の先を冷静に見極められた者だけが、正解にたどり着ける。解剖学とは、かくも精密な学問なのじゃよ。


臨床の“目”で読む

頚椎斜位像は、特に頚椎症性神経根症が疑われる場合に、極めて重要な情報を提供してくれます。

ーなぜ斜位像が重要なのか?ー

腕のしびれや痛みを引き起こす頚椎症性神経根症の原因の多くは、加齢性変化などによってできた骨棘(こつきょく)が、神経の通り道である椎間孔を狭くしてしまう(狭窄)ことです。 この椎間孔の狭窄の程度を評価するのに、頚椎斜位像は最も適しています。画像上で、正常な楕円形の椎間孔が、骨棘によって涙滴状や鍵穴状に変形していないかなどを詳細に観察します。

ー「スコッチテリア」サインとの違い ー

X線写真の所見として有名な「スコッチテリアサイン」について触れておきましょう。 このサインは、腰椎の斜位像で、椎弓や関節突起などが作る形が犬のスコッチテリアに見えることを指します。

  • : 椎弓根
  • : 横突起
  • : 上関節突起
  • 前足: 下関節突起
  • : 椎弓間部

そして、この犬の「首」の部分に骨折線(分離)が見える状態を「スコッチテリアの首輪」と呼び、脊椎分離症を示唆する重要なサインとなります。

【注意点】 この特徴的なサインは、あくまで腰椎斜位像のものです。頚椎斜位像では、同じように椎弓根や関節突起を描出しますが、このような犬の形には見えないため、「スコッチテリアサイン」は用いません。両者を混同しないよう、正確に覚えておきましょう。


今日のまとめ

  1. このX線写真は頚椎斜位像であり、主な目的は椎間孔を明瞭に描出すること。
  2. 矢印が示すのは椎弓根。椎体を後方要素に繋ぐ骨の部分で、斜位像では楕円形の「眼」のように見える。
  3. 頚椎斜位像は、骨棘などによる椎間孔の狭窄を評価し、腕のしびれなどを起こす神経根症の診断に不可欠である。

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