デジタルX線画像における雑音に最も影響を及ぼす因子はどれか。
- 画像の輝度
- 画像の彩度
- 焦点サイズ
- 後方散乱係数
- X線量子モトル
出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)
5.X線量子モトル
解説
✔ X線画像の「雑音」とは?:画像のザラザラ感
X線画像の「雑音(ノイズ)」とは、画像に含まれる意図しないランダムな濃度ムラのことで、いわば画像の「ザラザラ感」です。
このザラつきが強いと、淡い病変や微細な構造が見えにくくなり、診断の妨げとなります。
✔ 雑音の最大の原因:「X線量子モトル」
デジタルX線画像における、このザラザラ感の最も主要な原因が「X線量子モトル」です。
これは、画像を構成するX線光子(量子)の数が、そもそも確率的にバラついているために生じる、物理的に避けられない現象です。
ーアスファルトに降る「雨」をイメージしてみましょうー
- 線量が少ない(雨がポツポツ)
- 雨粒がまばらにしか落ちてこないと、濡れた点と乾いた点がはっきりと分かり、地面は「まだら模様」になります。これがノイズの多い(ザラザラした)画像です。
- 線量が多い(雨がザーザー)
- 雨粒がたくさん降ってくると、地面は均一に濡れ、滑らかな一つの面になります。これがノイズの少ない(滑らかな)画像です。
このように、検出器に到達するX線光子の数が少ないほど、その数の統計的なバラつきの影響が相対的に大きくなり、画像のザラつき(量子モトル)として現れるのです。
✔ 各選択肢について
1. 画像の輝度
- ❌ 誤り
- ディスプレイの輝度(明るさ)は、画像の「見え方」を変えますが、画像データそのものに含まれるノイズの量を変えるわけではありません。
2.画像の彩度
- ❌ 誤り
- 彩度はカラー画像で使う指標であり、白黒のX線画像とは無関係です。
3.焦点サイズ
- ❌ 誤り
- 焦点サイズは、画像の鮮鋭度(シャープさ、ボケの少なさ)に影響する因子であり、ノイズ(ザラザラ感)の主原因ではありません。
4.後方散乱係数
- ❌ 誤り
- 散乱線は、画像のコントラストを低下させる(全体を白っぽくする)主な原因ですが、ザラザラ感(ノイズ)の主原因ではありません。
5.X線量子モトル
- ✅ 正解
- 検出器に到達するX線光子数の統計的なバラつきが、画像のザラザラ感として現れる、最も主要なノイズ源です。
出題者の“声”

この問題は、X線画質を語る上での最も基本的な概念、「雑音の正体は何か?」を問うておる。
ワナは、画質を劣化させる他の要因と混同することじゃ。
「焦点がボケれば画質は落ちる」「散乱線が増えれば画質は落ちる」。それは事実じゃ。
しかし、それらはそれぞれ「鮮鋭度」や「コントラスト」の問題。
画像の「ザラザラ感(ノイズ)」の親玉は誰かと聞かれれば、それは「X線量子モトル」じゃ。
このノイズは、検出器の性能が悪いから生じるのではない。X線というものが、そもそもパラパラと飛んでくる「粒」の集まりであるという、物理法則に根差した宿命なのじゃ。
この本質を理解しておれば、迷うことはないはずじゃ。
臨床の“目”で読む

「量子モトルがノイズの主原因である」という物理原則は、私たち放射線技師が日々行う撮影条件の決定と被ばく管理に直結しています。
ー画質と被ばくのトレードオフー
この原則から導かれる、最も重要な臨床的知見は以下の通りです。
ノイズを減らす(画質を上げる) ⇔ 線量を増やす(被ばくが増える)
これは、X線撮影における永遠のトレードオフです。
- 小児の撮影
- 被ばくを最小限に抑えるため、低い線量(mAs値)で撮影します。その代償として、画像にはある程度のノイズ(ザラザラ感)が生じることを許容します。
- 体格の大きな方の撮影
- 十分なX線量を確保しないと、体が厚いために検出器に届く光子数が極端に少なくなり、ノイズまみれの診断不能な画像になってしまいます。そのため、ある程度の被ばくは許容し、診断に必要な画質を担保できる線量で撮影します。
ーノイズ低減技術の進化ー
近年では、撮影された画像からソフトウェア処理でノイズ成分だけを賢く除去する「ノイズリダクション技術」が大きく進歩しました。これにより、以前より低い線量で撮影しても、ソフトウェアの力でノイズを低減し、診断に適した滑らかな画像を得ることが可能になってきています。これは、量子モトルというノイズの正体が分かっているからこそできる、被ばく低減の切り札です。
今日のまとめ
- デジタルX線画像の雑音(ノイズ)の最も主要な原因は、X線光子数の統計的なバラつきである「X線量子モトル」である。
- 線量(X線光子数)が少ないほど、相対的なバラつきが大きくなり、ノイズは増加する。
- 焦点サイズは鮮鋭度に、散乱線はコントラストに主に影響し、ノイズの主因ではない。
- 臨床では、被ばく線量(量子モトルの増加)と画質(量子モトルの低減)の間で、常に最適なバランス(最適化)が求められる。
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