NEW!第77回 午前 97

医療安全管理学

診療放射線技師法で規定されている業務範囲で正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. 採血のための静脈路確保
  2. 造影剤副作用時のアドレナリン筋肉内投与
  3. 造影剤注入装置で造影剤を投与するための静脈路確保
  4. 造影剤注入装置で造影剤を投与するための動脈路確保
  5. 下部消化管検査のために肛門に挿入したカテーテルからの空気吸引

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.造影剤注入装置で造影剤を投与するための静脈路確保
5.下部消化管検査のために肛門に挿入したカテーテルからの空気吸引


解説

✔ 診療放射線技師の業務範囲とは?

診療放射線技師の仕事は、医師または歯科医師の指示の下に放射線を用いた検査や治療を行うことです。

しかし、検査・治療を安全かつ円滑に進めるため、法律によって特定の「付随業務」を行うことが認められています。

✔ 認められている主な付随業務

  • 静脈路確保
    • 造影剤自動注入装置を用いて造影剤を注入するための静脈路確保(医師の具体的な指示が必要)。
  • カテーテル操作
    • 医師によって体内に挿入されたカテーテルに対して、造影検査や治療の過程で行う単純な操作(例: 下部消化管検査での空気や造影剤の注入・吸引)。

✔ 明確に禁止されている行為

  • 動脈路確保(動脈穿刺)
  • 採血を目的とした静脈路確保
  • 医薬品の投与(造影剤副作用時のアドレナリン投与など)

✔ 各選択肢について

1. 採血のための静脈路確保

  • 誤り
  • 技師に認められているのは、あくまで「造影剤注入」を目的とした静脈路確保です。採血目的の穿刺は業務範囲外です。

2.造影剤副作用時のアドレナリン筋肉内投与

  • 誤り
  • アドレナリンなどの医薬品の投与は医行為であり、医師にしか許されていません。技師はあくまで医師の指示の下で補助役に徹します。

3.造影剤注入装置で造影剤を投与するための静脈路確保

  • 正解
  • 造影CT検査などを円滑に行うため、医師の指示の下で技師が静脈路を確保することは、法律で認められている業務です。

4.造影剤注入装置で造影剤を投与するための動脈路確保

  • 誤り
  • 動脈穿刺は、静脈穿刺に比べてリスクが格段に高く、高度な技術を要する医行為です。いかなる目的であれ、技師が行うことはできません。

5.下部消化管検査のために肛門に挿入したカテーテルからの空気吸引

  • 正解
  • 注腸検査(下部消化管造影)において、最適な画像を得るために腸管の張り具合を調整することは、検査の主担当である技師の重要な役割です。医師が挿入したカテーテルを通じて空気の注入や吸引を行うことは、認められた付随業務です。

出題者の“声”

この問題は、君たちが将来持つことになる国家資格の「責任の範囲」を、正しく理解しておるかを試しておる。何ができて、何をしてはいけないのか。この境界線を知ることは、患者さんの安全と自分自身を守るための、最も重要な知識じゃ。

ワナは、行為の「目的」を読み飛ばしてしまうことじゃ。「静脈路確保」という言葉だけを見て、「できる!」と飛びつくと、1番のようなワナにはまる。法律は「何のために」という目的を、極めて厳密に規定しておるのじゃ。

近年、「タスク・シフト/シェア」という言葉をよく聞くじゃろう。

医師の働き方改革を背景に、我々技師に任される業務も広がりつつある。じゃが、その拡大された業務には、より一層の責任と法律の正確な理解が求められる。

この問題は、そのプロとしての自覚を問うておるのじゃ。


臨床の“目”で読む

診療放射線技師の業務範囲が法律で明確に規定・拡大されている背景には、「チーム医療」の推進と、医療界全体の大きな課題である「医師の働き方改革」があります。

ーなぜ静脈路確保が認められたのか? タスク・シフトの実践ー

医療の質の向上と安全確保のため、医師が本来の業務に集中できる環境を作ることが急務となっています。その解決策の一つが「タスク・シフト/シェア(業務の移管・共同化)」です。 これまで医師や看護師が行っていた業務の一部を、適切な研修を受けた他の医療専門職が担うことで、チーム全体の効率を上げる取り組みです。

診療放射線技師による造影剤注入のための静脈路確保は、まさにこのタスク・シフトの代表例です。

かつては看護師が静脈路を確保し、技師が撮影を行うのが一般的でしたが、適切な研修を受けた技師が一連の流れを担当することで、検査の待ち時間が短縮され、医師や看護師の負担を軽減し、チーム医療全体の効率を向上させているのです。

ー責任と研修の重要性ー

もちろん、この業務拡大は大きな責任を伴います。静脈路確保を行う技師は、手技そのものだけでなく、血管外漏出などの合併症への対処法も含めて、院内で定められた十分な研修を受け、認定されている必要があります。私たちは、法律で認められた業務を、プロフェッショナルとしての責任感を持って安全に遂行しているのです。

ー透視下での業務ー

下部消化管検査では、技師が透視を見ながら、医師の指示の下で患者さんの体位を変え、バリウムや空気を注入・吸引し、最適な画像を描出します。カテーテルからの空気吸引は、この一連の操作に不可欠な要素であり、これもまた、検査における技師の専門性を活かしたタスク・シェアの一環と言えます。


今日のまとめ

  1. 診療放射線技師は、「造影剤注入装置を用いた造影剤投与」を目的とした静脈路確保を行うことができる。
  2. 下部消化管検査などにおいて、挿入済みのカテーテルからの空気等の注入・吸引といった補助業務が認められている。
  3. 動脈路確保採血目的の穿刺医薬品の投与は、明確に業務範囲外である。
  4. これらの業務範囲はチーム医療を推進するために定められており、実施には医師の具体的な指示と適切な研修が前提となる。

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