NEW!第77回 午前 98

放射線安全管理学

放射性同位元素等規制法で誤っているのはどれか。

  1. 原子力基本法の精神にのっとっている。
  2. サイクロトロンは放射線発生装置に該当する。
  3. 1メガ電子ボルト未満のエネルギーを有するエックス線は放射線の定義に含まれる。
  4. 放射線障害予防規程を変更した場合、変更の日から30日以内に原子力規制委員会へ届け出なければならない。
  5. 特定放射性同位元素は、放射性同位元素であって、その放射線が発散された場合において人の健康に重大な影響を及ぼすおそれがあるものである。

出典:厚生労働省公開PDF(令和7年版)


3.1メガ電子ボルト未満のエネルギーを有するエックス線は放射線の定義に含まれる。


解説

✔ 放射性同位元素等規制法(RI規制法)とは?

RI規制法は、原子力基本法の精神にのっとり、放射性同-位元素放射線発生装置、およびそれらから発生する放射線による障害を防止し、公共の安全を確保するための法律です。 重要なのは、この法律がすべての放射線を対象としているわけではないという点です。

✔ RI規制法における「放射線」の定義

この法律は、特にエネルギーの高い放射線や、リスクの大きい線源を管理対象としています。そのため、法律内で「放射線」という言葉を以下のように特別に定義しています。

  • 粒子線: α線、β線、中性子線など
  • 電磁波: γ線、およびエネルギーが1メガ電子ボルト(MeV)以上のエックス線

この「エックス線は1MeV以上」という下限値が、この問題を解く上での最大の鍵です。 これにより、放射線治療で用いるリニアック(例: 6MV)などはこの法律の対象となりますが、私たちが日常的に使う診断用のX線装置(例: 120kVp = 0.12MeV)は、この法律の対象外となり、医療法などの別の法律で管理されることになります。


✔ 各選択肢について

1. 原子力基本法の精神にのっとっている。

  • 正しい
  • RI規制法の第一条に明記されており、日本の原子力・放射線関連法規の体系の一部をなしています。

2.サイクロトロンは放射線発生装置に該当する。

  • 正しい
  • サイクロトロンは、荷電粒子を加速して放射線を発生させる装置であり、RI規制法における「放射線発生装置」の定義に該当します。

3.1メガ電子ボルト未満のエネルギーを有するエックス線は放射線の定義に含まれる。

  • 誤り
  • 前述の通り、RI規制法における「放射線」の定義では、エックス線は1MeV以上のものに限られます。

4.放射線障害予防規程を変更した場合、変更の日から30日以内に原子力規制委員会へ届け出なければならない。

  • 正しい
  • これは、法律で定められた事業者の義務の一つです。

5.特定放射性同位元素は、放射性同位元素であって、その放射線が発散された場合において人の健康に重大な影響を及ぼすおそれがあるものである。

  • 正しい
  • これは、テロなどに悪用されるリスクが高い、特に厳重な管理が求められる放射性同位元素の定義そのものです。

出題者の“声”

この問題は、法律の条文をどれだけ正確に読解できるかを試しておる。法律の問題では、君たちが普段使っている物理学の「常識」が、必ずしも通用しないことがあるのじゃ。

最大のワナは、3番の「放射線の定義」じゃな。

「100kVのX線だって、立派な放射線じゃないか!」と思うのが物理学徒の常識。しかし、RI規制法という「特別なルールブック」の中では、それは「放射線」とは呼ばないのじゃ。

この法律は、1MeVという一本の線を引くことで、自分が管理する「高エネルギーの世界(治療など)」と、医療法が管理する「低エネルギーの世界(診断など)」を、明確に分けておる。

法律の問題を解くときは、「物理学者の帽子」を脱いで、「法律家の帽子」をかぶること。言葉の定義を、条文通りに正確に適用できるかが、勝負の分かれ目じゃ。


臨床の“目”で読む

このRI規制法は、特に放射線治療部門核医学部門で働く私たちにとって、日々の業務の安全を規定する、極めて身近で重要な法律です。

放射線治療部門での関わり

私たちが扱うリニアックは、6MVや10MVといった高エネルギーのX線を発生させるため、まさにRI規制法における「放射線発生装置」です。そのため、

  • 治療室の分厚い遮蔽壁の設計
  • 管理区域の設定と、そこでの厳格な安全管理
  • 放射線障害予防規程の作成と、それに基づく教育訓練
  • 装置の定期的な点検と、変更時の届出義務 といった、法律で定められた数多くのルールに従って、日々の業務を行っています。

核医学部門での関わりー

PET検査で用いるFDG (¹⁸F)や、SPECT検査で用いるテクネシウム (⁹⁹ᵐTc) といった放射性同位元素(RI)は、この法律における管理対象です。RIの購入、保管、使用、廃棄、そして記帳まで、すべてのプロセスがこの法律によって厳しく管理されています。

診断部門との違いー

一方で、一般撮影やCT、マンモグラフィなどの診断用X線装置は、発生エネルギーが1MeV未満であるため、この法律の対象外です。これらの装置の管理は、主に医療法や電離放射線障害防止規則(電離則)に基づいて行われます。 自分が扱う装置が、どの法律によって規制されているのかを正しく理解することは、放射線技師としての基本的な責務です。


今日のまとめ

  1. RI規制法における「放射線」の定義では、エックス線は1メガ電子ボルト(MeV)以上のものに限られる。
  2. この定義により、放射線治療装置(リニアックなど)はこの法律の対象となり、診断用X線装置は対象外(医療法の管轄)となる。
  3. サイクロトロンはRI規制法上の放射線発生装置であり、予防規程の変更は30日以内の届出が必要である。
  4. この法律は、高エネルギーの放射線源を安全に管理し、放射線障害を防止するために、私たちの臨床現場に深く関わっている。

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